「中国からの挑戦状」Y-8Q対潜哨戒機─【中編】中国の狙い

急速に進捗する配備

固定翼対潜哨戒機は広い海域を監視可能だが、常続的な監視を行なうためには多数の機体が必要となる。

Y-8Qはすでに3個艦隊の飛行連隊への配備が進んでいる模様で、Google Earthによると大連(北海艦隊)、上海(東海艦隊)、陵水(南海艦隊)における所在が確認できる。筆者が2020年10月初頭に入手した写真では、海南島北東部のボアオ空港においてもその所在を確認した。

南海艦隊がいる陵水基地で確認されたY-8Q(著者がGoogle Earthにて作成)

同時期より中国軍機による台湾南方海域(バシー海峡)への進出が活発化しており、現在(2020年12月18日)も継続していることから、ボアオへの展開は台湾周辺への進出を念頭に行なわれた可能性がある。

中国沿海部および台湾周辺の地図[地図をクリックで拡大]

ボアオ空港は、近傍に所在した海口(ハイコウ)飛行場(かつて海軍航空部隊と民間航空会社が共同使用)を廃止し、海南島の観光開発の目玉の一つとして建設された大規模な民間空港だ。

廃止された海口は海軍戦闘機部隊の根拠基地でもあったことから、中国海軍は海口に代わる飛行場を求めたと思われ、今後ボアオにおけるY-8Q部隊の運用が継続されるかもしれない。

Y-8Qによる哨戒飛行について、公開される情報だけではその実態の把握に至らないものの、おそらく配備基地を基点として洋上に設定した複数の哨戒区において実施されているものと推定される。現在認められている活動状況から、台湾南方海域はその哨戒区の一つということになるだろう。

中国のウェブ上の情報ではY-8Qの航続距離は6,000キロ程度とされ、P-3C(約7,800キロ)に比較するとやや劣る。台湾が探知したY-8Qのバシー海峡における活動状況から、Y-8Qが海南島から飛行したと仮定した場合、進出距離は約1,000キロなので、時速約400〜500キロで巡航すると8時間程度の哨戒が可能と見積もられる(今のところ、空中給油に関連した改装は認められていない)。

先述のボアオにおける写真においてはY-8Q 8機による列線(航空機がエプロン[駐機場]に並べられて運用状態にあること)が認められる。これを例にとると、航続性能と機数から、2個哨戒区において24時間の哨戒任務の実施が可能と考えられる。

なお、哨戒区(哨区)とは、効率的な哨戒のために、海域を一定の範囲毎に区分けしたものである。1機あたり哨戒時間を8時間と見積もった場合、3機ローテーションで24時間の哨戒が可能という計算になる。ボアオにおいては8機の所在が認められていることから、2つの哨戒区をカバーすることが可能と考えられる(残りの2機は整備または訓練)。

ボアオ空港のエプロンに並んでいるY-8Q(Photo:施陶芬贝格)

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薗田浩毅元自衛隊情報専門官、軍事ライター、ネイリスト
(そのだ・ひろき)
1987年4月、航空自衛隊へ入隊(新隊員。現在の自衛官候補生)。所要の教育訓練の後、美保通信所等で勤務。 3等空曹へ昇任後、陸上自衛隊調査学校(現小平学校)に入校し、中国語を習得。
1997年に幹部候補生となり、幹部任官後は電子飛行測定隊にてYS-11EB型機のクルーや、防衛省情報本部にて情報専門官を務める。その他、空自作戦情報隊、航空支援集団司令部、西部および中部航空方面隊司令部にて勤務。2018年、退官。