中国海軍が期待する3つの役割
(1)戦略ミサイル原子力潜水艦の護衛
Y-8Qに期待されている役割の一つは、戦略ミサイル原子力潜水艦1(SSBN)で構成される戦略核戦力を守ることである。
中国海軍は、従前からの北海艦隊青島の夏(Xia)級SSBN基地に加え、2000年代に入り高級リゾート地でもある海南島南部の亜龍(ヤーロン)湾に、JL-2(巨浪二型 射程約8,000キロ)潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM2)を搭載する晋級(Jin-class)SSBNの基地を建設した。
北海艦隊の夏級SSBNは搭載するJL-1(巨浪一型 射程約2,500km)により、黄海北部海域において本邦を含む周辺国への核攻撃を企図、もう一方の南海艦隊のJING級戦略原潜は、南シナ海からバシー海峡周辺のエリアを遊弋し、米国への核投射を窺うという運用であるものと推定される。
北海艦隊が担当する黄海や東海艦隊正面の東シナ海は水深が比較的浅く、潜水艦の行動に制約があるとも言われるが、南海艦隊が担当エリア内にあるバシー海峡は水深3,000メートルを超えるところもあり、潜水艦の行動に制約が少ない。つまりSSBNの運用に適しているが、それを狙う敵の潜水艦にとっても有利な海域と言うことになる。
中国海軍が、北海および東海艦隊においてY-8Qの配備が各1個部隊であることに対して、南海艦隊においては陵水およびボアオという2個飛行場において運用していることは、中国軍における海南島の重要性を示しているものと言える。
当然、平時には中国SSBNに対する監視や情報収集のために、米国や日本の潜水艦戦力がバシー海峡を航海しているであろうし、有事においては晋級SSBNの撃沈を図ろうとするのは当然である。また、台湾南方の左営(ズオイン)基地には旧式化した通常動力型とはいえ、台湾海軍の潜水艦4隻が配備されている。これらの敵対する潜水艦を捜索・監視し、必要ならば、それらを排除することはY-8Qの最優先の任務であるはずだ。
(2)米台「対潜ネットワーク」の分断
二つ目は台湾周辺で米国潜水艦の影響力を排除することである。
台湾は2013年より米国より中古のP-3Cの導入を図っており、すでに12機が配備されている。導入に当たってはASWOC(Anti-Submarine Warfare Operation Center:対潜作戦センター)の設置も含まれている。ASWOCは対潜作戦を指揮するとともに、対潜データを分析するほか、収集したデータを米国との間で集約・共有するための施設であり、その設置は、台湾が米国の「対潜ネットワーク」に加入したことを意味する。
そして台湾のP-3C飛行隊とASWOCは台湾最南端付近の屏東(ビンドン)基地に位置しており、明らかにバシー海峡を意識した配置であると読み取れる。米国もこの台湾軍の動きに呼応するかのように、2014年のグアム基地の増強など、太平洋方面における潜水艦戦力を強化する動きを見せている。
台湾の対潜能力強化は台湾周辺における米海軍の原潜運用を有利にするものであるから、中国軍にとってこの動きは到底看過できるものではない。Y-8Qのバシー海峡への進出は、米台の潜水艦に対する監視を強化して、その対潜ネットワークに楔を打ち込みたいという中国軍の意思の表れでもあるだろう。
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