「中国からの挑戦状」Y-8Q対潜哨戒機─【中編】中国の狙い

(3)「中国の海」であることの誇示

3つ目は国家の海洋領域支配の範囲を示すことである。

Y-8Qは、敵の潜水艦を狩り出すことはもちろん、目視や対水上レーダー、EO/IRセンサーにより洋上における監視を行なうことも重要な任務であることは間違いない。対潜哨戒機は、戦術的意義もさることながら、国家の海洋領域支配の範囲を示すツールともなり得る。対潜哨戒機による哨戒は、他国に対するプレゼンス誇示という意味でも重要な任務なのである。

下の写真は、キューバ危機において大西洋を航行するソビエト貨物船を低空から監視する米海軍P-2である。これは、米国の哨戒機が常続的に飛行する海域は(たとえ国際法上は米国の領海ではなくとも)米国の掌握下にあることを示している。

キューバ危機の際、12機のIL-28爆撃機を輸送しているソ連の貨物船(オホーツクと思われる)の上空を監視飛行する米海軍のP-2(SP-2H)対潜哨戒機(Photo:U.S. Navy)

中国は島嶼などの領有権を巡って、日本を含む周辺国との係争が顕在化しているのはご承知の通りだ。係争中の島嶼などの付近においては、一義的に中国の中国海警局所属の法執行船艇が活動しているが、その背後には海軍が見え隠れしている。尖閣諸島周辺においても、海警局船艇の後方には常に海軍艦艇が進出しているのだ。

中国海警局は、2018年3月より中国の「国内軍」とも言える武装警察の隷下に入ることとなり、軍との連携が一層密接になったとされる。また、中国海軍は哨戒機の運用について、海域警備の法執行船艇と協力するとしている。

係争海域にY-8Qによる哨戒が加わることは、次のような影響を生む。まず、対峙する日本の海上保安庁や周辺国の船艇の配置や、取り締まり対象の外国漁船などを空から掌握できることとなる。そしてそれらの情報を海警局と共有することは法執行能力の大幅な強化に繋がり、中国による領有権のアピールは一層強化されることとなる。

参考文献

・『当代中国航空工业』(〈当代中国〉丛书编辑部编、中国社会科学出版社、1988年)
・『巡逻机科技知识(上)』(冯文远、遼海出版社、2015年)
・『1950年代中苏军事关系见证』(沈志华/李丹慧、复旦大学出版社、2009年)
・「舰船知识」2007年5月号(中国船舶工業集団有限公司)
・「兵工科技」2008年11月号(陝西省科学技術協会)
・「舰载武器」2010年12月号(中国船舶重工業集団公司)
・「现代舰船」2019年21期・22期(中国船舶重工業集団公司)
[ウェブサイト]
中華民国国防部
再谈中国海军的下饺子问题——反潜篇
中国需要自己的反潜巡逻机
捉“奸”?中国空潜 -200 频繁战巡台海,神秘的反潜巡逻机究竟在干什么?
航空自导深弹成运8反潜机标配武器 作战深度达600米
One Step from Nuclear War : The Cuban Missile Crisis at 50: In Search of Historical Perspective
・运8反潜机内部键盘细节,看似民用超薄键盘,却是第三代复合显控(※元ページ消滅によりリンク切れ)
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薗田浩毅元自衛隊情報専門官、軍事ライター、ネイリスト
(そのだ・ひろき)
1987年4月、航空自衛隊へ入隊(新隊員。現在の自衛官候補生)。所要の教育訓練の後、美保通信所等で勤務。 3等空曹へ昇任後、陸上自衛隊調査学校(現小平学校)に入校し、中国語を習得。
1997年に幹部候補生となり、幹部任官後は電子飛行測定隊にてYS-11EB型機のクルーや、防衛省情報本部にて情報専門官を務める。その他、空自作戦情報隊、航空支援集団司令部、西部および中部航空方面隊司令部にて勤務。2018年、退官。