「中国からの挑戦状」Y-8Q対潜哨戒機─【後編】今後の展望と対台湾配備

[補足]なぜ、より台湾に近い福建省に拠点を置かないのか

今回のY-8Qの話からは少し逸れるが、編集担当から、Y-8Qの海南島配備に絡んで「なぜ中国は、より台湾に近い福建省に対潜部隊を置かないのか?」といった質問があったので、私の見解を端的に述べておきたい。

中国沿海部および台湾周辺の地図[地図をクリックで拡大]

中国軍は、福建省において海空軍部隊をあえて手薄にしていると思われる節がある。これは毛沢東の時代から続くものだ。

空軍を例にとると、福建省には複数の軍用飛行場があるが、その大半は固有の飛行部隊の常駐がない。1950年代から、台湾正面の福建省の各飛行場には他軍区(現在の戦区)から戦闘機部隊が数ヵ月交替で1個大隊(約10機)程度を展開させ、アラート任務に就いてきた。

海軍部隊についても、フリゲートやミサイル高速艇、哨戒艇等の小型艦艇部隊が主体で、駆逐艦や潜水艦部隊は所在していない。

これには以下のような理由が考えられるように思う。

  • 台湾からの反撃を考慮して、両軍対峙の「間合い」を遠目にとり、万一の際の被害を局限する。
  • 部隊交替による輪番制を採ることで、多くの部隊に台湾正面の環境を経験させ、台湾有事における即応戦力に厚みを持たせる。
  • 海峡における不測事態を回避する(常駐する海空軍部隊がいる場合、台湾海峡周辺における訓練が避けられないため)。

この態勢では、情勢緊迫時に、増援部隊を台湾正面に展開させる必要がある。台湾軍は福建省の中国軍部隊を常続的に監視していると思われ、同方面への部隊の展開は台湾側に察知されてしまい、奇襲という航空戦力の大きなメリットを活かせなくなる。

しかし中国側にしてみれば、「台湾正面への部隊展開」を台湾に対する政治的なメッセージとして示すこともできる。

さらに近年は、中国軍戦闘機の性能向上に加え、空中給油機の導入・訓練も拡大しており、Su-27の運用が軌道に乗った2000年頃を境に、浙江省や安徽省などに所在する基地から直接台湾海峡へ進出しているようだ。中国空軍も実戦的な航空戦力運用の観点から、台湾正面に展開する必要性は薄くなりつつあると考えている可能性がある。

2014年5月、尖閣諸島周辺を飛行する自衛隊機に対して異常接近を行なった中国空軍のSu-27。垂直尾翼に表記された番号「40547」は成都軍区(現:西部戦区)の第33戦闘機師団(現:第98戦闘機旅団)所属の機体であり、同師団が福建省に展開していた際の機体だと考えられる(Photo:防衛省)

参考文献

・『当代中国航空工业』(〈当代中国〉丛书编辑部编、中国社会科学出版社、1988年)
・『巡逻机科技知识(上)』(冯文远、遼海出版社、2015年)
・『1950年代中苏军事关系见证』(沈志华/李丹慧、复旦大学出版社、2009年)
・「舰船知识」2007年5月号(中国船舶工業集団有限公司)
・「兵工科技」2008年11月号(陝西省科学技術協会)
・「舰载武器」2010年12月号(中国船舶重工業集団公司)
・「现代舰船」2019年21期・22期(中国船舶重工業集団公司)
[ウェブサイト]
中華民国国防部
再谈中国海军的下饺子问题——反潜篇
中国需要自己的反潜巡逻机
捉“奸”?中国空潜 -200 频繁战巡台海,神秘的反潜巡逻机究竟在干什么?
航空自导深弹成运8反潜机标配武器 作战深度达600米
One Step from Nuclear War : The Cuban Missile Crisis at 50: In Search of Historical Perspective
・运8反潜机内部键盘细节,看似民用超薄键盘,却是第三代复合显控(※元ページ消滅によりリンク切れ)
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薗田浩毅元自衛隊情報専門官、軍事ライター、ネイリスト
(そのだ・ひろき)
1987年4月、航空自衛隊へ入隊(新隊員。現在の自衛官候補生)。所要の教育訓練の後、美保通信所等で勤務。 3等空曹へ昇任後、陸上自衛隊調査学校(現小平学校)に入校し、中国語を習得。
1997年に幹部候補生となり、幹部任官後は電子飛行測定隊にてYS-11EB型機のクルーや、防衛省情報本部にて情報専門官を務める。その他、空自作戦情報隊、航空支援集団司令部、西部および中部航空方面隊司令部にて勤務。2018年、退官。