スタンドオフミサイルを自衛隊は運用できるか──長射程ミサイルの難しさとは?

さらに障害となるのは「運用組織の問題」

もし発射管制のためのシステムが構築されても、さらに大きな問題が横たわっている。それはこのシステムを運用する組織の問題である。

長射程対艦誘導弾を発射するためには遠方の目標情報を取得する航空機などが必要になるが、このためだけに常時偵察機を飛行させておく訳にはいかない。となると、海上/航空自衛隊の対潜哨戒機や早期警戒機(AEW&C)が取得した情報を活用することになるが、(陸上自衛隊の)目標情報を収集分析する責任者は情報収集の優先順位を偵察機に伝えなければならない。

そして目標情報を得たとしても、多数いる敵の艦船のどれを優先して射撃するかは海上で戦闘を指揮する責任者でなければ決定できない。そのためミサイル着弾直前のman-in-the-loop判断は海上自衛官の役割となるであろう。

さらに攻撃の効果判定は海上自衛官が行なうとしても、見極めるための航空機の運用は航空部隊指揮官が、ミサイルの発射管制やミサイル部隊の自衛処置は(陸上自衛隊の)ミサイル部隊が判断して行なうこととなる。

陸上のレーダが沖合50キロ以内で上陸部隊を乗せた艦船を発見して射撃する12式地対艦誘導弾の戦闘と違い、長射程型の地対艦誘導弾が参加することになる対艦作戦は艦対艦ミサイル、空対艦ミサイル、潜水艦の対艦武器など多様なシステムで行なうこととなる。そのため、長射程型の地対艦誘導弾は対艦戦全般の指揮統制下で戦うことになる。

“スタンドオフミサイル”の運用イメージ(兵器等は仮定のもの)。陸上自衛隊の12式地対艦誘導弾だけでは作戦は完結せず、航空・海上自衛隊などとの連携が必須となってくる(Image:防衛省、海上自衛隊、航空自衛隊、DoD)

このような複雑なプロセスを短い戦闘間に行なうのには、従来の指揮系統では無理で、陸海空などの垣根を超えた指揮系統や連携が要求される。しかし今日の自衛隊にはこれに対応した組織も、制度も存在しない。つまり長射程地対艦誘導弾を運用する際は、技術的問題以上にこの問題が阻害事項になるであろう。

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ABOUT US
藤岡智和日本安全保障戦略研究所上席研究員、防空システムアナリスト
(ふじおか・ともかず)
1944年生まれ、東京都出身。防衛大学校 13期。
対空ミサイルHAWK部隊の整備幹部を経て、陸上自衛隊高射学校でHAWKシステムの整備教官として改良HAWKの導入のため米陸軍防空学校に留学。
防衛省技術研究本部第1研究所レーダ研究室(当時)研究員として、電子戦などを担当。
その後高射学校研究員として、03式中距離SAMの構想段階から要求性能書作成までを担当。高射学校研究員として9年間勤務後陸上自衛隊中央システム管理運用隊長として、陸上自衛隊指揮システムの導入を担当。
1999年 退官(1等陸佐)。