「中国がJ-10を北朝鮮へ輸出!?」──噂から考える中国の対北朝鮮供与の歴史

J-10供与の兆候はないが、可能性も否定できない

北朝鮮空軍にとって老朽化した機体の更新は急務だと推定される。欧米の軍事メディアにおいては「ロシアからSu-35の導入を検討中」といった報道もなされている。

しかし、エアショーや兵器見本市などに北朝鮮軍の高官が姿を現すようなこともなく、装備更新に関する動向は不透明なままだ。

冒頭で述べた「中国が北朝鮮に対してJ-10を供与する」という噂についても、今のところそのような事実や兆候は確認されていない。しかし、以下に示すとおり、中朝関係は再度緊密さを取り戻しつつあるようだ。

金正恩は、就任当初こそ中国への態度が不透明であったものの、2018年から4回の訪中を行なっている。

2019年は中朝国交樹立から70周年の節目の年であったが、4月に中国軍文芸代表団が平壌を訪れたのに続き、6月には習近平が平壌を訪問、金正恩と会談した。

8月には金秀吉(キム・スギル)朝鮮人民軍総政治局局長(当時)が訪中し、中国軍制服組ナンバー2の張又侠(ちょう・ようきょう)上将と会談している。

訪中し、8月17日北京にて中央軍事委員会副委員長の張又侠(右)と会談した朝鮮人民軍総政治局の金秀吉局長(左)(Image:中華人民共和国国防部)

さらに10月には、中央軍事委員会委員・政治工作部主任である苗華(みょう・か)海軍上将が北朝鮮を訪れ、北朝鮮国際部部長と会談において「中国の軍隊は朝鮮人民軍と同じ道に立つ」と発言している。

2020年は、中朝の軍事協力を規定する中朝友好協力相互援助条約の更新の年(同条約は20年ごとの更新)であった。国際ウォッチャーの一部には「中国は更新しないのでは?」との憶測もあったようだが、習近平と金正恩は相互に祝電を交換し、同条約は今後20年の継続が合意された。

中朝間の高級軍人の往来は、両軍の協力関係の伸展を示唆しているものと思われ、今後、兵器供与など具体的な動きに発展する可能性を孕んでいる。悪化する一方の米中関係から、今後の朝鮮半島情勢によっては再び中国が北朝鮮に軍事的協力を再開する可能性は否定できない。北朝鮮の国籍標識をつけたJ-10やJF-17が登場するのは、あながち非現実的とも言えなくなっているのかもしれない。

中国とパキスタンが共同開発した単発の軽戦闘機JF-17(FC-1)。F-35やJ-10Bと同じくダイバータレス超音速インレット(DSI)を備えている。パキスタン空軍で運用され、ミャンマー、ナイジェリアにも輸出されている(Image:Robert Sullivan)


ステイン・ミッツァー(著)/ヨースト・オリマンス(著)/宮永忠将 (監修)、大日本絵画, 2021年9月3日, ISBN : 978-4499233279、240ページ

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薗田浩毅元自衛隊情報専門官、軍事ライター、ネイリスト
(そのだ・ひろき)
1987年4月、航空自衛隊へ入隊(新隊員。現在の自衛官候補生)。所要の教育訓練の後、美保通信所等で勤務。 3等空曹へ昇任後、陸上自衛隊調査学校(現小平学校)に入校し、中国語を習得。
1997年に幹部候補生となり、幹部任官後は電子飛行測定隊にてYS-11EB型機のクルーや、防衛省情報本部にて情報専門官を務める。その他、空自作戦情報隊、航空支援集団司令部、西部および中部航空方面隊司令部にて勤務。2018年、退官。