第1回 F-2テストパイロットが教える「スマートな音速飛行の技」

F-15やF-2のスロットル

ついでにF-15やF-2のスロットルのお話もしておきます。

F-15ではノッチを超えるイメージです。MILからちょっと引っかかる“でっぱり”があって、そこを強く押して力で超えます。するとミニマム・アフターバーナーの位置に入ります。
その後、ノズルの開き具合などを確認しながらMAXアフターバーナーまで進めます。

F-15とF-2のスロットルの構造。F-15は引っかかる“でっぱり”があり、力を入れてそれを力で押して進める形となる。F-2は、スロットルレバーを少し立てることで進めることができる(Illustration:宮坂デザイン事務所)

ちょうどオートマ車で、シフトレバーをニュートラルからドライブへ移動させるみたいなイメージで、特にバックに入れるときにボタンなどを押すような操作は特別必要はありません。
アフターバーナーをカットするときも、同じようにミニマム・アフターバーナーから力でスロットルレバーを引くと、MILに入ります。

F-2のスロットルレバーは少し特殊で、下のコンソールではなく、機体左側の外壁からパイロットに向かって生えています。そして、ストロークは円状になっています。

ですから、スロットルレバーの操作は手前から弧を描きながら前進させます。
MILからミニマム・アフターバーナーと、カットオフから(通常レンジの)IDLEへ進める際の2ヵ所では、スロットルレバーを左にひねってやや上向きに(立てるように)して進めます。
すると、コトンといってIDLEもしくはミニマム・アフターバーナーの位置に入ります。



最初にアフターバーナーレンジに少し入れておく

話を戻しましょう。
アフターバーナーレンジへと最初わずかに進めるのは、大きな意味があります。特にF-15以降のエンジンはターボファンエンジンですので、特に重要です。

F-4のJ-79エンジンはターボジェットエンジンでそんなに華奢じゃないので、失火は滅多にありませんが、ターボファンエンジンの場合は確実な着火を確認してからスロットルを進めるのが無難です。

スロットルをアフターバーナーレンジにわずかに進めると、ノズルインジケーターがOPEN方向に動きます。この動きが大切です。
わずかにノズルを開いて、排圧を下げます。そして、排気に直接燃料を流し始めます。燃料は着火され、100%推力として排出されます。

通常のジェットエンジンは自分自身を回すためにかなりのエネルギーを使ってしまうので、飛行機自体を飛ばすためのエネルギー(推力)は想像以上に少なかったりします。

アフターバーナーはエンジンタービン以降に燃料を流すので、すべての燃料燃焼エネルギーは推進力に変わります。またアフターバーナーへの着火はイグナイターで着火されます。火花を飛ばし続けて燃焼を継続させます。

イメージ的には熱い空気が流れてきているので勝手に着火しそうですが、これはとても危険な考えです。積極的に燃焼をさせないと異常な燃焼(爆発)を誘発する可能性があるからです。

アフターバーナー説明図(Illustration:宮坂デザイン事務所)

無事ABの着火が確認できたら、さらにスロットルを前進させます。ノズルがスムーズに開いてきて、体が背もたれに押さえつけられるような加速感が伝わってきます。
通常の流体の流れは、出口の面積が狭い方が流速は速くなりますが、超音速流では出口を広くした方がより高速の流れとなります。

渡邉吉之・著
『戦闘機パイロットの世界
“元F-2テストパイロット”が語る戦闘機論

飛行時の体感から、計器・HUDの見方、エンジンスタートから着陸までの手順、空戦やマニューバー、失速や緊急時の対応方法まで!

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渡邉吉之元航空自衛隊パイロット、テストパイロット
(わたなべ・よしゆき)
1951年東京都生まれ。防衛大学校を経て航空自衛隊へ入隊。第8航空団(築城基地)でF-4EJ、飛行開発実験団(岐阜基地)でF-15J戦闘機などのテストパイロットとして勤務。操縦経験機種は各種戦闘機のほか、グライダー、軽飛行機、練習機、大型輸送機、ヘリコプターなど30機種におよぶ。
1990年、F-2支援戦闘機の開発のために三菱重工業に移籍。新製機や修理機のテストフライトを担当し、設計の改善等をアドバイスする。1995年、F-2の初フライトを成功させる。その後、同社の戦闘機の生産拠点である小牧南工場の工場長などを務める。
著書に『戦闘機パイロットの世界』(パンダ・パブリッシング)、共著に『零戦神話の虚像と真実』(宝島社)がある。