スピードを増すと少し上を向くF-4
さて、F-4の場合、排気口が下向きなので、推力増加の影響でわずかな機首下げモーメントが発生します。パイロットは本能的に操縦桿を引いて、機首を支えます。気が付かないパイロットも多いと思います。
ここでトリムする必要はありません。わずかな支え舵(手による操縦。のちの回で説明します)で対応します。
トリムするとは、飛行機を希望する姿勢に保持するために翼に付いている超小さな舵を動かして、飛行機のバランスをとることです。トリムの使い方で操縦の上手下手が決まりますので、別の機会に細かく説明させていただきます。トリムが使えれば操縦はマスターしたのと同じです。
背中を押される感覚がどんどん強まり、速度計の数値が増えはじめます。速度増加と共に機首が上に向こうとします。これは飛行機の持つ大切な特性で、そうでないものは飛ぶことはできません。縦の静安定性と言われる性質です。
(縦の静安定性とは、飛行機が進行方向を常に向こうとする性質です。風見鶏ですね! 風見鶏と言うと左右方向をイメージしますが、上下方向にも風が来る方向を向こうとする性質です。この性質があると、飛行機は速度を増すと上を向こうとするし、減速すると下を向こうとします)
加速と共に、機首が上がろうとするのをトリムを使って抑えます。この操作によって操縦桿に何の力を加えなくても真っ直ぐに飛ぶようになります。もし左右バンク方向にずれが出るようなら、これもトリムで抑えます。
ただし、左右バンク方向のずれは飛行機の横滑りから発生する場合もあるので、横滑り計を見て、原因を明確にする必要があります。仮に横滑りが原因なのにバンクトリムで修正してしまうと、飛行機は不安定な状態で維持されることになって、突然想像もしていない運動をする可能性がありますので、ご注意ください。
また使い込んだ飛行機は、機体が曲がっている場合があります。こうなると速度を変えるたびに飛行機のバランスが崩れるので、常にトリムを触る必要があります。
ただし、最近の飛行機はコンピューターが操縦のアシストを常にしてくれて、速度の変化や重心位置の変化によるバランスの不均等は自動的に修正してくれるので、パイロットのロードはかなり軽減されています。
マッハ1付近では速度計は働かない
そろそろ音速に近づいてきました。
すると突然、縦の静安定性が逆転します。それまで加速するにつれて機首が上がろうとするので押さえてきましたが、ある瞬間、急に機首が下がろうとします。そのため飛行機は超不安定になります。
操縦桿を押さえ込んでいたのに、飛行機がある瞬間、自分から機首を下げようとするのです。仮にそれまで操縦桿に力を加えて(上を向こうとする)動きを押さえ込んでいた場合、飛行機自身がさらに押し込むことになるので、心の準備ができていないと大きなマイナスGが発生して悲鳴を上げることになります。
しかしこの縦の静安定性が逆転する領域は極めて狭いので、通常加速している場合でトリムしてあれば、あまり感じないでしょう。ただし減速時には飛行機を壊してしまうような、とても大きな影響がありますので注意が必要です。これものちのちの回で説明しますね。
いよいよ音速が近づきます。
しかし速度計には躊躇が見られます。音速を超えようとしません。これは速度計の特性から来る現象と、音の壁を破るパワーの問題です。
次の瞬間、音速を超え、速度計はマッハ1.05程度を示します。ですからマッハ1.0を示すときはありません。
また、高度計は瞬時に2周ほど回ってプラス2,000フィート(約610メール)程度を示します。これらは静圧孔(Static Port:静圧[現在の高度での空気圧]を測るための機体両側面の孔)付近を音の壁が通過するときに起こる現象で、決して飛行機自体が急激に上昇しているわけではありません。
さて、音速を超えると、さらにいろいろな変化が出てきます
このお話は次回「音速を超えてからの加速テクニック」をお楽しみに!
連載「F-2テストパイロットが教える 戦闘機パイロットの世界2」第1回─終─
コメントを残す