第4回 飛行機を飛ばすだけではない!? 「戦闘機のテストパイロット」の仕事とは?

製造/変更後の不具合を防止する

昔の飛行機は、設計が終わり作ってしまった飛行機の運動性などを変更するには膨大な時間と費用が必要となりました。しかし現代の飛行機を飛ばしているのは、フライトコンピュータですので、このプログラムを変更するだけで、飛行機の特性を変更することが可能です。

ただし、飛行制御プログラムをちょっとでもいじれば、全飛行領域での安全性を確認しなくてはいけないので、以前ほどではありませんが、かなりの時間と費用が発生します。
ですから開発中のテストパイロットの仕事は、製造後の不具合を防止するために無限にあるのです。

飛行機が出来上がり、実際の飛行が始まれば、テストパイロットの仕事は最大限に膨らみます。初飛行だけではなく、毎回の飛行が初めての領域や各種機能のチェックとなるからです。

XF-2の試験飛行での滑走回数と試験項目(J-STAGEで公開されていた資料「XF-2の社内飛行試験」より抜粋)

また、飛行機は自然環境をもろに受けます。ですから昨日は良くても、今日は不適合となることもざらに発生します。原因を調べていくと、その日の湿度が大きく前日と違っていたことなどが判明したりします。

まあ、いずれにせよ、何らかの対応が必要となります。飛行試験はやればやるほど問題が発生します。100%問題なしとなることはあり得ません。
そこでどこで合格とするかのラインを、テストパイロット同士で意見交換する必要があります。

 

また大切なのは、数値に現れない状況の評価です。飛行機の性能は数値で現れますので、合格不合格は明確です。
しかし問題は、特性試験です、飛行特性も振動数や振幅幅などで判定できる分野はそれなりにありますが、100%パイロットの感覚で評価する特性試験も多々あります。

また、数値で満足でも、パイロット評価が不満足の場合もあります。この場合、パイロット評価が優先されます。
特にライド・クオリティー(乗り心地)は完全に人間の感覚なので、パイロットによって評価の分かれる部分です。

さらに、飛行機のマニュアル(手順書)を作るのもテストパイロットの仕事です。
車を購入してもマニュアルはついてきます。しかし誰も読まないでしょう。車はマニュアルを読まなくても運転できるように作られているからです。

しかし、飛行機はそうはいきません。エンジンのかけ方でさえ、飛行機によってまったく異なります。キーを入れて回せばいいとか、ボタンを押すだけでエンジンがかかるわけではありません。
まあ、F-15以前と以降では戦闘機のエンジンスタートは大きく変化していますがね!(この話は別の機会に)

渡邉吉之・著
『戦闘機パイロットの世界
“元F-2テストパイロット”が語る戦闘機論

飛行時の体感から、計器・HUDの見方、エンジンスタートから着陸までの手順、空戦やマニューバー、失速や緊急時の対応方法まで!

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渡邉吉之元航空自衛隊パイロット、テストパイロット
(わたなべ・よしゆき)
1951年東京都生まれ。防衛大学校を経て航空自衛隊へ入隊。第8航空団(築城基地)でF-4EJ、飛行開発実験団(岐阜基地)でF-15J戦闘機などのテストパイロットとして勤務。操縦経験機種は各種戦闘機のほか、グライダー、軽飛行機、練習機、大型輸送機、ヘリコプターなど30機種におよぶ。
1990年、F-2支援戦闘機の開発のために三菱重工業に移籍。新製機や修理機のテストフライトを担当し、設計の改善等をアドバイスする。1995年、F-2の初フライトを成功させる。その後、同社の戦闘機の生産拠点である小牧南工場の工場長などを務める。
著書に『戦闘機パイロットの世界』(パンダ・パブリッシング)、共著に『零戦神話の虚像と真実』(宝島社)がある。