第5回 パイロットの腕の見せ所? 無用の長物?──戦闘機のバルカン砲

機動する目標を狙う──ダート射撃

バナー射撃とは別に、高速機動しているターゲットに対する射撃である「ダート射撃」があります。これは戦闘機が引く3メートルほどの三角形の目標を射撃するもので、戦闘機は350ノット(時速約650キロ)ほどで飛行します。

ダート射撃のイメージ。三角形の目標を牽引する戦闘機は3G程度の機動を行なう

このターゲットも回収して後で確認するのですが、ターゲット内にチョークの粉を入れてあって、弾が打ち抜くと白い粉が飛び散るので、射撃中に目視で成果を確認できます。

この射撃の場合、ターゲットが通常3G程度で機動しているので、射撃機には4~5Gがかかります。照準のリード量が増えるので、かなり難しい射撃になります。

なお、リード量とは撃たれた弾が目標まで飛行するのまでにかかる時間のことで、目標の移動量と弾の重力落下量を計算した量です。その量はHUD(ヘッド・アップ・ディスプレイ)やHMD(ヘッド・マウンテッド・ディスプレイ)に表示されますが、射距離が遠かったり自機の射撃Gが大きいと、その合計のリード量は大きくなって、自分の機体で目標を隠してしまいます。

理論的には撃てばヒットするはずですが、見えない目標を撃つことは安全上しないので、目標が機動を止めるか、射距離を詰めることが必須条件になります。

通常は1,000~1,500フィート(約300〜450メートル)程度が理想的です。それ以上接近すればヒットしやすくなりますが、いろいろな面で危険性が増してしまうのでしょうがありません。実戦では最初に当てなくては自分が撃たれてしまうのですが、この射距離の制限は訓練であるが故の制限です。

「戦闘機相手にガンを使うのは99.9%無駄」

目標が高速機動するダート射撃では、射撃成果はほとんど当たりません。計算すると毎分6,000発を撃っても、空域には数十メートルごとに1発の弾が猛烈な勢いで通過しているだけになるので、確率的にも当たる確率はめちゃくちゃ低いのです。

また、射撃する方も射撃可能な位置にいられるのは1~2秒ですので、ガンで相手を打ち落とすには、きわめて優れた技能をもっていることと、相手が撃たれることを知らない状態である必要があります。第二次世界大戦中やテレビゲームでは簡単にガンで飛行機を撃ち落としていますが、ちょっと嘘っぽいというか、私がめちゃくちゃ射撃下手だった可能性があります(笑)。

ただし先ほども言ったように、20ミリ弾はただの鉄の固まりではありません。中には炸薬が入っていますので、当たればその場で爆発して大量の破片が飛び散り、目標には致命傷を与えることができます。ですから相手が機動しない大型爆撃機ならば、射撃で落とすことが可能かもしれませんね。

給弾ベルトに巻かれた状態のM61バルカンの20ミリ弾(JM51A1)の模擬弾。この「20ミリ」とは20ミリ口径で、弾の直径が20ミリであることを示す

でも、そんな面倒なことをするより、ミサイルを2本撃った方が確実です(笑)。ミサイル射撃については長くなるのでまた別の機会にしますね。結論は、「戦闘機相手にガンを使うのは99.9%無駄」ということでしょう。

渡邉吉之・著
『戦闘機パイロットの世界
“元F-2テストパイロット”が語る戦闘機論

飛行時の体感から、計器・HUDの見方、エンジンスタートから着陸までの手順、空戦やマニューバー、失速や緊急時の対応方法まで!

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渡邉吉之元航空自衛隊パイロット、テストパイロット
(わたなべ・よしゆき)
1951年東京都生まれ。防衛大学校を経て航空自衛隊へ入隊。第8航空団(築城基地)でF-4EJ、飛行開発実験団(岐阜基地)でF-15J戦闘機などのテストパイロットとして勤務。操縦経験機種は各種戦闘機のほか、グライダー、軽飛行機、練習機、大型輸送機、ヘリコプターなど30機種におよぶ。
1990年、F-2支援戦闘機の開発のために三菱重工業に移籍。新製機や修理機のテストフライトを担当し、設計の改善等をアドバイスする。1995年、F-2の初フライトを成功させる。その後、同社の戦闘機の生産拠点である小牧南工場の工場長などを務める。
著書に『戦闘機パイロットの世界』(パンダ・パブリッシング)、共著に『零戦神話の虚像と真実』(宝島社)がある。