第5回 パイロットの腕の見せ所? 無用の長物?──戦闘機のバルカン砲

油断大敵だが、当てやすい──対地射撃

次に対地射撃です。これはめちゃ当たります。面白いように集中弾が当たり続けます。止まっている目標なら誰でも当てることが可能です。大型トラックなども戦闘機から見れば止まっているのと同じですから、だれでも打ち抜くことが可能でしょう。

ただし対地射撃は地上に向かって降下しながら撃ちますので、あまり面白がって撃ち続けると自分が地面とぶつかってしまう危険性が増大します。飛行機は機首のある方向に飛びますが、機首の方向を変えた瞬間はそれまで飛んできた軌道の延長線上を慣性の力で移動し続けるので、「あっ」と思った瞬間に最大Gで逃げても飛行機は動いてくれません。

航空自衛隊のF-4EJ改の20ミリ機関砲は機首下面(黄色矢印)に備えられている(Photo:航空自衛隊ホームページ)
1968年、空母に着艦しようとしているアメリカ海軍のF-4B。この当時のF-4には機関砲は備えられていなかったことが分かる(Photo:U.S. Navy)

これとは別に危険なのは、跳弾です。普通の拳銃でも壁や床に当たった弾が反射して、思いもよらない方向に飛んでいくじゃないですか(経験あるでしょ? 笑)。飛行機での対地射撃でも同じことが起こります。射撃場の地上で見ていると、弾が四方八方に反射して飛んでいくのが確認できます。これを見ちゃうとめちゃ対地射撃が嫌いになります。

対地射撃は、本当に集中的に当たりますので、もし車で走っているところを戦闘機に狙われたら、トンネルに入るか、橋の下などに隠れるのがベストでしょう。まあ戦闘機が飛んできたら建物からでないのが一番かも(笑)。

当てやすいけど実用性は低い?──対艦射撃

対水(艦)射撃も、当たります。艦船は大きいし、移動速度も遅いので簡単に弾は当たります。また水面上に撃った弾の着弾が白く見えるので、船の手前から狙って撃ち始めれば確実にヒットさせることができます。

しかし、艦船はでかいので当てるのは簡単ですが、20ミリ弾が数発当たっても蚊に刺された程度の影響しかないでしょう。それ以上に艦船には多くの対空兵器が搭載されていますので、戦闘機が射撃位置まで移動する前に、確実に戦闘機には(艦船からの)弾が当たっているかミサイルが刺さっているので、現実的には戦闘機のガンで船を狙うことはないと思います。

結局、戦闘機のガンは、当たればそれなりの成果は上げられますが、戦場では相手も撃ってくるので射撃位置まで行く前に打ち落とされてしまいます。まして射撃体勢に入っている戦闘機は数秒間直線飛行をしているので、簡単に照準されてライフルでも打ち落とせるでしょう。

F-15がガンを撃っている瞬間。機体のピンク色の部分が機関砲の発射口で、機体前方のピンク色のものが曳光弾(出典:航空自衛隊のYouTube動画からのスクリーンショット)

でもパイロットとしては、役に立たないと分かっていても、お守りとして装備して欲しい物の一つです。

しかし、“使えない機材”を積んで重さが1トンも増えてしまうくらいなら、こいつを下して機動性を上げて、その浮いた分だけの容量と重さの燃料を追加で積んだ方がどれだけ有益かはテストパイロットとしては感じます。それでも、家庭電気製品を選ぶ際に、あれば便利だけど絶対使わないであろう機能がある方をなんとなく選んでしまいがちになるのと同じです(笑)。

連載「F-2テストパイロットが教える 戦闘機パイロットの世界2」第5回─終─

渡邉吉之・著
『戦闘機パイロットの世界
“元F-2テストパイロット”が語る戦闘機論

飛行時の体感から、計器・HUDの見方、エンジンスタートから着陸までの手順、空戦やマニューバー、失速や緊急時の対応方法まで!

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渡邉吉之元航空自衛隊パイロット、テストパイロット
(わたなべ・よしゆき)
1951年東京都生まれ。防衛大学校を経て航空自衛隊へ入隊。第8航空団(築城基地)でF-4EJ、飛行開発実験団(岐阜基地)でF-15J戦闘機などのテストパイロットとして勤務。操縦経験機種は各種戦闘機のほか、グライダー、軽飛行機、練習機、大型輸送機、ヘリコプターなど30機種におよぶ。
1990年、F-2支援戦闘機の開発のために三菱重工業に移籍。新製機や修理機のテストフライトを担当し、設計の改善等をアドバイスする。1995年、F-2の初フライトを成功させる。その後、同社の戦闘機の生産拠点である小牧南工場の工場長などを務める。
著書に『戦闘機パイロットの世界』(パンダ・パブリッシング)、共著に『零戦神話の虚像と真実』(宝島社)がある。