第6回 テストパイロットの1日──試験飛行の見積もりが3倍になる理由が分かる??
連載「戦闘機パイロットの世界2」

【プリブリーフィング】誰かが不安視したら即中止

離陸時間が決まると、その2時間前に今回の飛行のプリブリーフィングが開始されます。実際は、試験飛行計画書(試験方案)作成時にも参画しているので、内容は理解済みです。ですのでプリブリーフィングでは、整備員から飛行機の今日の状況について、技術者から試験中の注意点などについてレポートされます。

なお、この場で少しでも疑問点があれば飛行は中止されます。飛行許可は許可権者が出しますが、飛行中止は誰でも提案することができます。一人でも何らかの不安あがれば、飛行は中止されるのです。この辺が通常の部隊の飛行とは違ってきます。

チェイス機は航空自衛隊のパイロットが担当

新型機の試験飛行のすべてにチェイス機1(随伴機)が随伴することになります。会社にはチェイス機となるべき機体がないので、自衛隊にチェイスをお願いします。試験の初期では離陸時からチェイス機が同行します。初飛行などの場合は、自衛隊の機体が会社まで来て同時離陸をします。

チェイス機のパイロットへのミッションブリーフィングは、同じ基地から上がる場合は一緒に実施しますが、小牧と岐阜に分かれているような場合は、事前にどちらかがもう一方へ行って事前ブリーフィングをしておいて、飛行当日はその日に変更にあった項目などを電話などで伝えて調整します。

この打ち合わせは重要で、例えば、あるポイントで試験機が右急旋回をすることになっていた場合、チェイス機は(試験機の)機動を予測して適切な位置についています。しかし何らかの理由で事前に左旋回に変更になった場合、大きな危険が生じたり、データをとれなかったりして、無効ミッションとなってしまうからです。

戦闘機ではないが、スペースジェット(当時の名称はMRJ)の初飛行に随伴するT-4。写真は2015年11月11日のもの(Photo:防衛省)

なお、チェイス機は試験機の性能によって決まります。例えばXF-2(のちのF-2)は速度範囲が広いので、低速試験ではT-4、中速はF-4、高速はF-15が担当しました。試験の種類によってはチェイス機が持つべき装置があることはありますが、基本的には撮影装置などのみです。

またチェイス機の機数は、通常の試験飛行では1機ですが、例えばミサイル試験射撃などでは発射母機に1機、ミサイルに1機と、合計2機が必要となります。さらに(ミサイルの)目標機も飛ばす場合は、その分のチェイス機も追加されることになります。

加えて、チェイス機に乗るには資格が要り、それなりの経験と試験をパスする必要があります。一般のパイロットではできません。私が最初にチェイス機に乗ったのは、海上自衛隊の小型ビジネス機へ測定装置を搭載したフラッター試験機に対しての任務でした。

チェイス機の仕事は、試験機が試験に集中できるように、飛行中に必要なその他の仕事をすべて実施することです。やることは山ほどありますので、別の回で詳しく説明したいと思います。

脚注

  1. チェイス機……Chase Plane。随伴機。試験機などに随伴して飛行し、撮影やエンジニアリングデータを収集する機体。パイロットはチェイス機、技術者は随伴機と呼ぶことが多い

渡邉吉之・著
『戦闘機パイロットの世界
“元F-2テストパイロット”が語る戦闘機論

飛行時の体感から、計器・HUDの見方、エンジンスタートから着陸までの手順、空戦やマニューバー、失速や緊急時の対応方法まで!

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渡邉吉之元航空自衛隊パイロット、テストパイロット
(わたなべ・よしゆき)
1951年東京都生まれ。防衛大学校を経て航空自衛隊へ入隊。第8航空団(築城基地)でF-4EJ、飛行開発実験団(岐阜基地)でF-15J戦闘機などのテストパイロットとして勤務。操縦経験機種は各種戦闘機のほか、グライダー、軽飛行機、練習機、大型輸送機、ヘリコプターなど30機種におよぶ。
1990年、F-2支援戦闘機の開発のために三菱重工業に移籍。新製機や修理機のテストフライトを担当し、設計の改善等をアドバイスする。1995年、F-2の初フライトを成功させる。その後、同社の戦闘機の生産拠点である小牧南工場の工場長などを務める。
著書に『戦闘機パイロットの世界』(パンダ・パブリッシング)、共著に『零戦神話の虚像と真実』(宝島社)がある。