第7回 戦闘機に向かう道も決まっている!?──①戦闘機に向かうまで

ヘルメットとハーネスはオールシーズンタイプ

服装はシーズンによってこのように変化しますが、ヘルメットとハーネスはオールシーズンタイプです(笑)。

また、ヘルメットは機種によって違ってきます。そもそもHUD(ヘッド・アップ・ディスプレイ)装備機かHMD(ヘッド・マウント・ディスプレイ)装備機かで異なりますし、機種によっても変更しなくてはいけません。ヘルメットについては、話がめちゃ長くなるので、また別の回で詳しくお話ししたいと思います。

実はハーネス、厳密にはハーネスと緊急胴衣が一体化しているものですが、機種によって微妙に異なります。F-15やT-4のハーネスではF-2には乗れません。
(ちなみに緊急胴衣には、上半身を浮かせるフロートや無線機、発煙筒なども入っています)

飛行服の上から、まずGスーツを履いて、次にハーネスを着ている航空自衛隊のパイロット(Image:YouTube「航空自衛隊チャンネル」より。画像クリックで動画へ移動)

なお、戦闘機のところへ向かうまでは、ハーネスの胸と太ももにある留めフックは外した状態で行動します。これらを絞めてしまうと、動きが取れなくなるほど体を絞めつけるからです。

ちなみに昔は、パラシュートを背負って戦闘機までトコトコ歩いていく必要がありました。でも現代の戦闘機はパラシュートがすでに座席にセットされていますので、ハーネスだけつけて戦闘機まで行き、着座後にハーネスとパラシュート座席などを接合して、座席とパイロットを一体化すればよくなりました。

パラシュートは20キロぐらいあったので、これを背負って戦闘機まで行って搭乗するのはかなりの労力だったわけですが、ハーネスだけになったことでピクニックに行く程度の体力があればよくなりました。


免許証も忘れずに!

この他に戦闘機(飛行機)に持っていくものは、飛行エリアの地図(F-2以降は地図がディスプレイに出るので不要)や、飛行に必要な各種資料(人によって異なります)などを持参します。具体的には、一番大事なのはその戦闘機のチェックリスト(緊急対処とか書いてある小さな本)で、他には各種周波数表や国内飛行場情報小冊子(通称フリップ)、任務に必要な資料などです。

(テストパイロットが行なう)飛行試験の場合は、膨大な量の記録用紙や手順書、制限事項メモも持っていきます。

また、法的には戦闘機の免許証も持って行く必要があります。一般的な自動車免許だと「中型・二種」みたいな区分ですが、軍用機の場合はざっくり言うと「F-15」や「T-4」といった型式指定になります。

もっとも、私が35年間飛んでいて、戦闘機の飛行中に免許証の提示を求められたことはありません(笑)。その上、一度ビデオレンタル屋さんで免許証の提示を求められたので、飛行機の免許証を出してみましたが、「なにこれ?」と言われて却下されました(笑)。

飛行機の免許証については、自衛隊や民間機で明確に細かく区分されています。なので免許証も明快なものですが、航空機メーカーの民間人パイロット(テストパイロット)が自衛隊機を飛ばすときには、免許が複雑になります。これもまた別の機会にご説明いたしましょう。

渡邉吉之・著
『戦闘機パイロットの世界
“元F-2テストパイロット”が語る戦闘機論

飛行時の体感から、計器・HUDの見方、エンジンスタートから着陸までの手順、空戦やマニューバー、失速や緊急時の対応方法まで!

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渡邉吉之元航空自衛隊パイロット、テストパイロット
(わたなべ・よしゆき)
1951年東京都生まれ。防衛大学校を経て航空自衛隊へ入隊。第8航空団(築城基地)でF-4EJ、飛行開発実験団(岐阜基地)でF-15J戦闘機などのテストパイロットとして勤務。操縦経験機種は各種戦闘機のほか、グライダー、軽飛行機、練習機、大型輸送機、ヘリコプターなど30機種におよぶ。
1990年、F-2支援戦闘機の開発のために三菱重工業に移籍。新製機や修理機のテストフライトを担当し、設計の改善等をアドバイスする。1995年、F-2の初フライトを成功させる。その後、同社の戦闘機の生産拠点である小牧南工場の工場長などを務める。
著書に『戦闘機パイロットの世界』(パンダ・パブリッシング)、共著に『零戦神話の虚像と真実』(宝島社)がある。