第7回 戦闘機に向かう道も決まっている!?──①戦闘機に向かうまで

戦闘機へと向かう道もちゃんと決められている

このような準備をして、戦闘機へ向かいます。通常戦闘機へ到着する時間は、離陸時間から逆算して決めます。機種によって異なりますが、だいたい30~50分前に戦闘機に到着するように救命装備室を出発します。

戦闘機までの歩く経路は決まっていて、自由にランプ(駐機地域:ramp)を歩き回れるわけではありません。基本的には、戦闘機の駐機している方向に向かって直角に行動します。

また、人間の通行路が白線などで指定されているランプもあります。その理由は、危険を避けるためです。一番の危険は、エンジンをかけている戦闘機の排気で自分が飛ばされたり、空気取入れ口に何かを吸い込まれたりすることです。空気の流れは強弱にかかわらず、人には見えませんからね。

旅客機ほどではないですが、戦闘機のエンジンもかなり危険です。アイドル状態だと、インテーク前は1〜2キロのもの、インテーク下でも水や小さなゴミを吸い込む程度ですが、それ以上のエンジン推力のときは、大人でも簡単に吸い込んでしまいます。実際、大昔にF-86Fに人が吸い込まれてしまった事故もありました。

インテークに貨物コンテナを吸い込んでしまった事故(Twitterより。画像クリックでTwitterへ移動)

さらに、プロペラ機では回転しているプロペラは見えませんし、耳を悪くしないために耳栓やイヤーマフを付けていることも多いので、意外と気付けません。もし回っているプロペラに触れようものなら、瞬時に大事故になってしまいます。

戦闘機側も、(実任務や有事以外では)エンジンスタート時には衝突防止灯などを点灯させて危険を知らせることが法的に必須とはなっているのですが、その効果は限定的でしょう。ランプ地域を通行する人は、常に戦闘機周りには危険が潜んでいることを強く自覚しておく必要があります。

事故防止のため、写真の赤線のように線が引かれていることもある(この写真はイメージで、この線は経路の線ではなく、危険区域を示すものである可能性が高い)。写真は2018年にF-35初の女性パイロットなったGina "Torch" Sabric大佐(Image:U. S. Air Force)



戦闘機を横切るときは真下から!

どうしてもエンジンをかけている戦闘機の近傍を通行しなくてはいけない場合は、整備員や機上にいるパイロットに自分が通行することをジェスチャーなどで知らせて、機体の真下を通過するのが一番安全です。

(他の整備員に)「チョークアウト(車輪止めを外せ)」のサインを出す整備員。始動中の機体のそばには必ず整備員がいる。主翼の付け根に赤く点灯しているのが衝突防止灯(アンチコリジョンライト)で、F-15Jであれば両主翼の付け根と垂直尾翼の後縁に備えられている(Image:YouTube「航空自衛隊チャンネル」からのスクリーンショット。画像クリックで動画へ移動)

その際、機上のパイロットは操作を中断していますので、通過後には通過完了したことをパイロットと整備員にはっきり伝える必要があります。

これでやっと自分の乗る戦闘機に到着です。戦闘機はスケジュールが組まれるまで、どの機番の機体に乗るか分かりませんので、部屋を出る前に(自分が乗る)機体がある位置を確認しておく必要もあります。

さて、ここからが本番です。次回は外部点検です。

 

連載「戦闘機パイロットの世界2」第7回─終─


渡邉吉之・著
『戦闘機パイロットの世界
“元F-2テストパイロット”が語る戦闘機論

飛行時の体感から、計器・HUDの見方、エンジンスタートから着陸までの手順、空戦やマニューバー、失速や緊急時の対応方法まで!

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渡邉吉之元航空自衛隊パイロット、テストパイロット
(わたなべ・よしゆき)
1951年東京都生まれ。防衛大学校を経て航空自衛隊へ入隊。第8航空団(築城基地)でF-4EJ、飛行開発実験団(岐阜基地)でF-15J戦闘機などのテストパイロットとして勤務。操縦経験機種は各種戦闘機のほか、グライダー、軽飛行機、練習機、大型輸送機、ヘリコプターなど30機種におよぶ。
1990年、F-2支援戦闘機の開発のために三菱重工業に移籍。新製機や修理機のテストフライトを担当し、設計の改善等をアドバイスする。1995年、F-2の初フライトを成功させる。その後、同社の戦闘機の生産拠点である小牧南工場の工場長などを務める。
著書に『戦闘機パイロットの世界』(パンダ・パブリッシング)、共著に『零戦神話の虚像と真実』(宝島社)がある。