第8回 自衛隊と米軍ではだいぶ違う「点検の許容範囲」──②外部点検

その後、外部点検へ──右回りで確認していく

コクピット点検が終わったら、次に外部点検に入ります。

皆様も車を運転するときは、法律で定められているので運行前点検をされるでしょう? まあ、今の法律では毎回ではなく適宜となっていますので、適宜でいいのですがね!

実は飛行機も、最近は飛行機によっては外部点検を含む飛行前点検の省略が認められている場合があります。ですので、たまたま飛行場などでパイロットが外部点検をせずに飛行機に乗るのを見ても、「あれ~? このパイロットは外部点検しないんだ!」と思っても、航空局に言いつけないように!!(笑)。(省略が認められているのは民間機の話で、自衛隊機は省略不可です)

 

話が逸れましたが、外部点検の話に戻りましょう。

マニュアルには「外部点検は、飛行に影響を及ぼしそうな異常(亀裂・漏れ)を発見するために実施する」と最初に書かれています。特に各センサー(迎え角センサーや速度センサー、静圧センサー、全温度センサーなど)に異物がついてないかなども調べなさいと書かかれています。

具体的には、飛行機(戦闘機)の外部点検は、マニュアルで示されている簡単な図に従って右回りにしていきます。

点検すべき個所は機種によって異なりますが、すべての飛行機に共通するのは、

  1. エンジンのインテーク内に異物はないか
  2. 各種カバーが取り外されているか
  3. 各パネルがしっかり閉まっているか

などを確認することです。

飛行前点検でF-16のエアインテークの中を覗き込む米空軍パイロット(Image:YouTube「USA Military Channel」からのスクリーンショット。画像クリックで動画へ移動)



機体ごともチェックすべきポイントも

とくにF-15では、機体の上にのぼって機体上面を確認することも指示されています。F-4も主翼の上を歩けますが、翼上面は地上からでも確認できるので実際は歩きません。飛行機の翼の上には、歩いても良い通路がちゃんと表示されていて、「WalkWay」と表示されています。

またF-15の場合は、注意事項として、特にレドームに傷や凹みがないことを確認しなさいと別項目で書かれています。

これはF-15の特徴なのですが、高い迎え角をとったときに意図しない急激なロールに入る可能性があるので、大きな非対称がレドームにある場合は、飛行を止めなさいと指示されています。たぶんこれに起因する事故がどこかで発生したのでしょう。

レドームとは機体先端の円錐形をしている部分で、ノーズコーンとも呼ばれる。F-15の場合、外部点検でレドームに傷や凹みがないことを確認する必要がある(Image:航空自衛隊ホームページ)

 

私の経験では、外部点検において、インテークの中に鳥がいたとか、ピトー管の中に虫が入っていたとか、静圧口の横に糸くずがあったとか、パネルのネジが1本緩んでいたとか、胴体下に何らかの液体が垂れていた、などの経験があります。世の中には、もっと大きな“出来事”があったという話は聞いたことがあります。

これら大事の原因の多くは、直前に故障が見つかって急遽修理したときなどに、最終点検手順が抜けていて、工具の置き忘れやパネルの閉め忘れ、誤接続など、そのまま飛んだら事故につながるものでした(これら事象の細部は大人の事情で省略させていただきますね)。

このように外部点検は、一般の方が想像される以上に大事な作業です。車ならば走っていて「あれ~、ちょっと変じゃん」と感じたらその場に止まり、外に出て点検すればいいでしょう。しかし飛行機はそれができないので、外部点検がとても大事になるのです。

また、外部点検でOKだとパイロットが判断すれば、それ以降はすべてパイロットの責任です。

なお武装関係の安全ピンは、外部点検の段階ではつけたままにしておきます。これらを引き抜くタイミングは点検の最後の段階で、離陸直前に専門整備員が抜いてパイロットに提示します。

武装関係の安全ピンを抜いて、パイロットに提示している整備員(Image:YouTube「航空自衛隊チャンネル」からのスクリーンショット。画像クリックで動画へ移動)

渡邉吉之・著
『戦闘機パイロットの世界
“元F-2テストパイロット”が語る戦闘機論

飛行時の体感から、計器・HUDの見方、エンジンスタートから着陸までの手順、空戦やマニューバー、失速や緊急時の対応方法まで!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

ABOUT US
渡邉吉之元航空自衛隊パイロット、テストパイロット
(わたなべ・よしゆき)
1951年東京都生まれ。防衛大学校を経て航空自衛隊へ入隊。第8航空団(築城基地)でF-4EJ、飛行開発実験団(岐阜基地)でF-15J戦闘機などのテストパイロットとして勤務。操縦経験機種は各種戦闘機のほか、グライダー、軽飛行機、練習機、大型輸送機、ヘリコプターなど30機種におよぶ。
1990年、F-2支援戦闘機の開発のために三菱重工業に移籍。新製機や修理機のテストフライトを担当し、設計の改善等をアドバイスする。1995年、F-2の初フライトを成功させる。その後、同社の戦闘機の生産拠点である小牧南工場の工場長などを務める。
著書に『戦闘機パイロットの世界』(パンダ・パブリッシング)、共著に『零戦神話の虚像と真実』(宝島社)がある。