第8回 自衛隊と米軍ではだいぶ違う「点検の許容範囲」──②外部点検

とくに注意すべきは「油のにじみや漏れ」

外部点検で気が付きにくいのは、燃料や油などの滲(にじ)みや漏れです。これらは状況によっては緊急事態につながる可能性もあるので確認が大切です。

燃料が滲んでいたら、それは大問題なのでフライトキャンセルですが、そこそこ多いのは作動油やエンジンオイルの滲みです。例えば脚のシリンダーにハイドロオイルがちょっと滲んでいる場合などは、制限の数値があるのでそれ以上の場合はフライトキャンセルとなります。

航空自衛隊の場合は滲みなどがあると比較的すぐにフライトキャンセルになりますが、米軍などではウエス(雑巾:Waste)でさっと拭いて、またすぐに漏れてこなければOKとされます(笑)。

いずれにせよ、機種によって漏れやすい場所とかありますので、事前の勉強が必要です。

テクニック的には外部点検のコツは、軽く叩いてみることです。その音と感触でしっかりパネルが閉まっているとか、他に干渉してないかとか、結構いろいろなことが分かります。また、手袋を外して外装タンク(増槽)などに触れれば、どこまで燃料が入っているかまで確認できます。

また、「この戦闘機では安全ピンを全部で3本抜く」というふうに、機種ごとに最低限確認すべき事項を覚えておくことも重要です。

F/A-18のパネルを開けて飛行前点検を行なう米海兵隊パイロット。パイロットが外部点検を行なう際は、質問に答えられるように整備員も後ろからついてくることが多い(Image:YouTube「USA Military Channel」からのスクリーンショット。画像クリックで動画へ移動)



「パイロットでないと」気が付かない部分もある!──複数の視点が重要

もちろん機体については、整備員が事前に時間をかけて細かく点検してくれています。でも整備員とパイロットでは仕事が違って、同じものを見るにしても見る観点が違ってきますので、「別の目で見る」という感じになります。

また、火薬関係の安全ピンを抜いたり、いろいろなガード(ピトーカバーなど)を外すのはパイロットの仕事になります。さらに外装タンクを付けている場合、ちゃんと燃料が入っているかどうかもパイロットが確認する大事な事項です。

 

時々あるのが先にも述べた作動油の滲みとか油漏れですが、これらが制限内のものなのかどうかを確認したり、パイロットとしてちょっとでも不安に思ったことを質問して回答を得る最後のチャンスになります。

特に試験飛行などでは、初めて搭載される機器などがあったり、計測機器などの外部配線などが通常の機体ではありえない形態をしている場合も多いので、それらの点についてパイロットが最終確認することは大切です。

もちろんそれらの装備品自体は専門家によってチェックされているわけですが、その装置が他のものと干渉しているとか、作動したときに物理的障害にならないかなどは、パイロットではないと気が付かないこともあります。なので、パイロットの外部点検はやはりとても大切なのです。

渡邉吉之・著
『戦闘機パイロットの世界
“元F-2テストパイロット”が語る戦闘機論

飛行時の体感から、計器・HUDの見方、エンジンスタートから着陸までの手順、空戦やマニューバー、失速や緊急時の対応方法まで!

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渡邉吉之元航空自衛隊パイロット、テストパイロット
(わたなべ・よしゆき)
1951年東京都生まれ。防衛大学校を経て航空自衛隊へ入隊。第8航空団(築城基地)でF-4EJ、飛行開発実験団(岐阜基地)でF-15J戦闘機などのテストパイロットとして勤務。操縦経験機種は各種戦闘機のほか、グライダー、軽飛行機、練習機、大型輸送機、ヘリコプターなど30機種におよぶ。
1990年、F-2支援戦闘機の開発のために三菱重工業に移籍。新製機や修理機のテストフライトを担当し、設計の改善等をアドバイスする。1995年、F-2の初フライトを成功させる。その後、同社の戦闘機の生産拠点である小牧南工場の工場長などを務める。
著書に『戦闘機パイロットの世界』(パンダ・パブリッシング)、共著に『零戦神話の虚像と真実』(宝島社)がある。