第8回 自衛隊と米軍ではだいぶ違う「点検の許容範囲」──②外部点検

自衛隊と米軍でだいぶ違う「許容範囲」

実際には、我が国の場合は外部点検で異常を発見することは滅多にありません。でも私が米空軍でF-4を飛ばしていたとき1などは、油は漏れているし、コネクターは外れているし、パネルのネジは緩んでいるしと、散々でした(笑)。

指摘しても、爽やかな笑顔で「OK! OK!」という回答が返ってくるだけです(笑)。特に油漏れ(滲み程度)は100%「問題なし!」で回答されます。「降りてきたら足しておくよ!」とだけ言われ、そのままGOです。

担当整備員も腰にハンマーとガムテープを下げていて、「これで直らないものはないよ!」と爽やかに言いますからね~。実際、外部点検で左脚のタイヤの所でケーブルが1本抜けていたので、「これ、おかしいじゃん!!」と言ったら、そのケーブルを所定の位置へ突っ込んで、その上からガムテープを貼って、得意の「OK!」でした。

同乗している米軍パイロットに聞いても「OK!」でした。まあ、アンチスキッドセンサー2なので、「アンチスキッドを使わなければいいか~」と思って飛びましたけどね。日本ではまったく考えられない行動でした。

2010年の日米共同訓練コープ・ノースへ参加した際にF-2の清掃を丁寧に行なう航空自衛隊の整備員。米軍の場合、ウインドシールドも油などで汚れていることも少なくないらしいが、パイロットもあまり気にしないらしい(真偽不明)(Image:U. S. Air Force)



点検中の怪我にも注意!

外部点検に関することでもう少し付け加えると、戦闘機の上下を歩き回ることになるので怪我をしないように気を付ける必要もあります。

特に戦闘機の下はアンテナや開いているパネルとか、突起物がかなりの数ありますので、注意を怠ると体の一部がこれらに当たって戦闘機を壊したり、自分が怪我をしたりしますので、十分注意する必要があります。

よくある事例はF-15の機体前方下にあるTACANアンテナ3に背中が当たって、アンテナを欠いたりしています。

F-15の前方下面(日の丸の下あたり)小さな突起物がTACANアンテナ。UHFアンテナなどは大きいのですぐに目に入るが、TACANアンテナは小さくて目立たないので、パイロットは機体下に潜って確認するときに体がこれに当たらないように注意する必要がある(Image:航空自衛隊ホームページの写真をトリミングして使用)

 

外部点検は地味な点検なのですが、大きな意味を持っていることをご理解いただけたでしょうか。

外部点検終了は、担当機4を“自分の機体”だと思って大切に整備している整備員から「機体を受け取って、オペレーションに入ります」という宣言になるわけです。

 

連載「戦闘機パイロットの世界2」第8回─終─


脚注

  1. 米空軍でF-4を飛ばしていたとき……約1年間、米空軍のF-4戦技教官課程に入校していたとき
  2. アンチスキッドセンサー……滑り止め装置のセンサー。アンチスキッドブレーキ(ASB:anti-skid brake)センサー。非常によく止まるが、新品のタイヤでももう使えなくなるので、通常はこの装置を作動させるまでの強いブレーキは使用しない。
  3. TACAN……方位と距離の測定を同時に行なう戦術航法装置。Tactical Air Navigationの略称。
  4. 担当機……航空自衛隊では、1機ごとに担当整備員(機付長)が割り振られている(パイロットは搭乗する機体が毎回変わる)。

渡邉吉之・著
『戦闘機パイロットの世界
“元F-2テストパイロット”が語る戦闘機論

飛行時の体感から、計器・HUDの見方、エンジンスタートから着陸までの手順、空戦やマニューバー、失速や緊急時の対応方法まで!

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渡邉吉之元航空自衛隊パイロット、テストパイロット
(わたなべ・よしゆき)
1951年東京都生まれ。防衛大学校を経て航空自衛隊へ入隊。第8航空団(築城基地)でF-4EJ、飛行開発実験団(岐阜基地)でF-15J戦闘機などのテストパイロットとして勤務。操縦経験機種は各種戦闘機のほか、グライダー、軽飛行機、練習機、大型輸送機、ヘリコプターなど30機種におよぶ。
1990年、F-2支援戦闘機の開発のために三菱重工業に移籍。新製機や修理機のテストフライトを担当し、設計の改善等をアドバイスする。1995年、F-2の初フライトを成功させる。その後、同社の戦闘機の生産拠点である小牧南工場の工場長などを務める。
著書に『戦闘機パイロットの世界』(パンダ・パブリッシング)、共著に『零戦神話の虚像と真実』(宝島社)がある。