第9回 武装と油圧で動く装置には要注意!──③インテリアチェック(内部点検)

通常、マスクは一度付けたら外さない

ちなみにキャノピーはいつでも閉めてOKです。そのままタクシーして、離陸前に閉めても手順上は問題ありません(部隊で決められているとは思います)。私はF-15の場合はエンジンスタート前に閉めていました。F-4は、雨でなければ離陸前に閉めていました。なぜならエアコンがぼろくて閉めると暑かったからです(笑)。

マスクも、必要がなければ離陸前に閉めればOKです。ただしマイクがマスク内にあるので、無線とかインターフォンで通話するときだけはマスクを閉める必要があります。通話するときだけ手でマスクを押さえつけてもOKです。

F-15へ乗り込みヘルメットとマスクを装着する航空自衛隊パイロット(Image:YouTube「航空自衛隊チャンネル」動画からのスクリーンショット。画像クリックで動画へ移動)

ただ、マイクがホットマイク(常にマイクの音がインターフォン内を流れていて、自分にもマイクの音が聞こえる)になっている場合は、マスクを外すと騒音がヘッドセットから聞こえてしまってうるさいという欠点があります。

マイクで言えば、飛行中もホットマイクを切れば静かですが、酸素も来なくなるのでそうもいきません。キャビン高度11万フィート以上だと、知らないうちに意識を失ってしまいます(与圧が正常ならば、飛行高度1万5,000フィートぐらいまではマスクなしでも正常に頭脳は働きます)。

映画などでは飛行中や敵機を撃墜した直後などにちょくちょくマスクを外しますが、普通は飛行中は外しません。マスクは自分の命を支えてもらっているものなので、はめるときには空気漏れがないように注意深く装着し、機体装備の酸素とかを使って圧力をかけて装着点検などをする必要があります。なので、付けたり外したりするのは面倒くさいので、一度着けたら降りるまで通常は外しません。まあ地上滑走中は、見た目を格好よく見せるために外しているパイロットもたまにはいます(笑)。


F-15はエンジンをかけるまでは電源なし

これが終われば、やっとエンジンスタートです。

参考までにお伝えすると、航空自衛隊では、F-15にバッテリーはないのでエンジンをかける前までインターフォンは通じません。なのでパイロットにとっては孤独な時間となります。

ただし三菱重工ではエンジンスタートの前に外部電源を入れてある2ので(外部点検前にパイロットの指示で入れる)、孤独な時間はありません。インテリアチェックしながら、時間があれば整備員さんとの会話も楽しめます。

ただし機体によっては、外部電源を入れるときは同時に冷却空気も入れないといけないものありますので、どの機種でも(外部電源を)入れていい訳ではありません。F-4までの機体はどうしてもエンジンスタートには外部電源が必要でしたので、普通に電源は入れています。

次回はエンジンスタートです

 

連載「戦闘機パイロットの世界2」第9回─終─


脚注

  1. キャビン高度……操縦席(客室)に与圧している場合、機体外の圧力(飛行高度)に与圧を加えた高度。戦闘機の与圧は飛行高度8,000フィートくらいからかけられ、2万4,000フィートくらいまでは一定に保たれる(例えば飛行高度が1万フィートでも2万フィートでも、与圧のおかげでキャビン高度は8,000フィートとなる)。pressurized cabin altitude
  2. 三菱重工ではエンジンスタートの前に外部電源を入れてある……三菱重工の場合はシェルター内で1機づつエンジンをかけるので、整備用に横まで電源が来ています。ですので簡単に機体に電源を入れることができます。通常の部隊では、飛行機の横まで電源車(起動車)を準備するのはかなりの負担なので、その手間を省いています(F-4だと、複数機を同時にエンジンスタートさせる際は機体数と同じ台数の電源車が必要でした)。

渡邉吉之・著
『戦闘機パイロットの世界
“元F-2テストパイロット”が語る戦闘機論

飛行時の体感から、計器・HUDの見方、エンジンスタートから着陸までの手順、空戦やマニューバー、失速や緊急時の対応方法まで!

1件のコメント

とても勉強になり、楽しいお話をありがとうございます。(M様)
少し前に、嘉手納のF-15Cを遠くから撮影したYoutube動画を見たのですが、パイロットがヘルメットを被らず(キャノピーは閉まってます)、ひざの上にヘルメットを置いてタキシングを始めたんです。
全機ではなく2機くらいのパイロットがやってました。
あれは何だったんだろうと・・ 撮影した人も、あんなの初めて見たとおっしゃってました。

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渡邉吉之元航空自衛隊パイロット、テストパイロット
(わたなべ・よしゆき)
1951年東京都生まれ。防衛大学校を経て航空自衛隊へ入隊。第8航空団(築城基地)でF-4EJ、飛行開発実験団(岐阜基地)でF-15J戦闘機などのテストパイロットとして勤務。操縦経験機種は各種戦闘機のほか、グライダー、軽飛行機、練習機、大型輸送機、ヘリコプターなど30機種におよぶ。
1990年、F-2支援戦闘機の開発のために三菱重工業に移籍。新製機や修理機のテストフライトを担当し、設計の改善等をアドバイスする。1995年、F-2の初フライトを成功させる。その後、同社の戦闘機の生産拠点である小牧南工場の工場長などを務める。
著書に『戦闘機パイロットの世界』(パンダ・パブリッシング)、共著に『零戦神話の虚像と真実』(宝島社)がある。