コンピュータの力で、昔と比べて超簡単に!?─④エンジンスタート

ジェットエンジンのスタート方法──IDLE回転まで手間がかかる

次に、本命のジェットエンジンのスタートに入りましょう。

ジェットエンジンの始動原理は、まずは適度な回転数まで何らかの力でコンプレッサーとタービンを回します。

ターボファンエンジン(ジェットエンジン)の構造(Image:Jeff Dahl/Tosaka)

ターボファンエンジンの場合はコアエンジン部分を回します。適度な回転数に達したら、次にイグニッション(点火装置)を作動させて燃焼室内に火花を飛ばします。

空気が十分流れ始めたら、燃料を少しずつ流し始めます。IDLE回転数の80%程度までは、エンジンは自力で回ることができないので、それまで補助パワーで回転を助けます。

ちなみにジェットエンジンの回転数1は、100%回転で30,000rpm(1分間当たりの回転数)程度です。IDLE時はエンジンによって異なりますが、だいた60~65%程度で、回転数で言えば20,000rpm程度だと思います。車は8,000rpm程度ですので、ジェットエンジンの回転数は一桁違うようです。



F-15より前の機体──起動車などが必須

エンジンスタートは機種によって異なります。まあ、エンジンが違えば、当然スタート手順も変わってきますよね。

ここで、意外な事実が……。実はF-15以前の戦闘機や練習機、たとえばF-4やT-2などでは自力でエンジンをかけられません。エンジンスタートには地上の機材から電力や圧縮空気をもらって機体内のスターターモーターや小さなタービンを回し、メインエンジンをスタートさせていました。

ですからこれらの飛行機は、エンジンをかけるための地上機材がない飛行場に降りてしまった場合は、それら機材が揃うまでエンジンスタートはできません。

F-4のエンジンを起動させるために電力や圧縮空気を供給するKM-3起動車とF-4(奥)。F-4がエプロンでエンジンを稼働させるには、火薬点火を除けばこの車両が必須となる(Image:Hunini)

 

なお、F-4EJでは野戦でもエンジンスタートできるように、火薬でのスタートも可能です。私は一度経験がありますが、機体下面が焦げました(笑)。

ちょっと紹介しておきますと、胴体下に小型バケツ程度の大きさの火薬を装着します。右エンジン用と左エンジン用の2つですね。

そしてコックピットのエンジンマスタースイッチの横にあるスイッチで、左右別々に点火します。そうすると火薬が燃え始め、大量の排気ガスが十数秒間出ますので、その排気の力でスタート用タービンを回します。

この回転をメインエンジンに伝え、エンジンスタート可能な回転数まで上げてから、イグニッションを作動させて燃料を流し始め、メインエンジンを回します。

脚注

  1. 回転数……回転数はコクピットの計器には%で表示されます。また、ターボファンエンジンの最大回転数は100%とは限らず、98〜102%くらいになります(エンジン制御がタービン温度によってなされるので、回転数はそれに応じて変化するため)

渡邉吉之・著
『戦闘機パイロットの世界
“元F-2テストパイロット”が語る戦闘機論

飛行時の体感から、計器・HUDの見方、エンジンスタートから着陸までの手順、空戦やマニューバー、失速や緊急時の対応方法まで!

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渡邉吉之元航空自衛隊パイロット、テストパイロット
(わたなべ・よしゆき)
1951年東京都生まれ。防衛大学校を経て航空自衛隊へ入隊。第8航空団(築城基地)でF-4EJ、飛行開発実験団(岐阜基地)でF-15J戦闘機などのテストパイロットとして勤務。操縦経験機種は各種戦闘機のほか、グライダー、軽飛行機、練習機、大型輸送機、ヘリコプターなど30機種におよぶ。
1990年、F-2支援戦闘機の開発のために三菱重工業に移籍。新製機や修理機のテストフライトを担当し、設計の改善等をアドバイスする。1995年、F-2の初フライトを成功させる。その後、同社の戦闘機の生産拠点である小牧南工場の工場長などを務める。
著書に『戦闘機パイロットの世界』(パンダ・パブリッシング)、共著に『零戦神話の虚像と真実』(宝島社)がある。