コンピュータの力で、昔と比べて超簡単に!?─④エンジンスタート

F-15以降の機体──JFSでエンジンを始動させる

この不便さを変えたのがJFS1(エンジン起動装置)です。圧縮空気を飛行中に自分の中に貯めておいて、その圧力で小さなジェットエンジンを回し、その小さなエンジンの力で大きな本物のエンジンを始動させてくれます。

ネリス空軍基地でF-15のJFSを査定する空軍州兵(Image:U.S. Air Force)

実際のF-15のエンジンスタートの手順はおおむね次の流れになります。

まずはエンジンスタートの準備として、JFSをスタートさせます。

(1)エンジンマスタースイッチをONにし、JFSスイッチをON
この2つは通常ONになっており、内部点検時にも確認済みです。

(2)JFSハンドルをPULL(引く)
F-15はバッテリィーがないので、エンジンが回るまで電気関係のスイッチは作動しません。そのため、直接パイロットがハンドルを引いて、JFSの圧搾空気ボンベのバルブを開く必要があります。

(3)各種警報をチェック
緊急用電源が入るので、エンジンのFIRE(火災および過熱警報装置)などの各種警報装置やインターフォンなどの作動確認をします。

ここからがメインエンジンのスタートです。通常は右エンジンからスタートさせます。理由はさまざまですが、F-15では右エンジンが臨界発動機2だからです。

(4)右エンジンスロットルのフィンガーリフトをPULL
スロットル前にあるレバーを指で引き上げてから離します。この操作でJFSの軸がメインエンジンに接続されます。

F-15のスロットル部分(画像の右下が機体の前方向)。まずは右スロットル(向かって左側)のフィンガー・リフトを引き上げるとJFSがメインエンジンにつながる



(5)エンジン回転数の上昇をチェック
メインエンジンの回転数(%)をチェックします。

(6)火災警報をチェック
エンジンの火災警報スイッチをテストします。問題があれば、お姉さんの声で「火事です!」と教えてくれます。

(7)メインエンジンの回転数が約18%になったら、スロットルをIDLEに進める
F-15の場合、スロットルをそのまま前に出せば、CUT-OFF位置からIDLE位置まで進みます。コツとしてはスロットル系のヒステリシスを消すため3に、IDLE位置よりも1cmほど前まで一旦出して、IDLE位置に引き戻す方がよいかもしれません。

F-15のスロットル部分の概略図。意図せずアフターバーナーレンジやCUT-OFFレンジに進めてしまわないように「でっぱり」がある(Image:宮坂デザイン事務所)

なおスロットルを引き戻しても、行き過ぎてCUT-OFF位置まで戻ってしまうことは構造上ありません(フィンガー・リフトを引き上げないと、CUT-OFF位置には戻せない)。

(8)エンジン計器をチェック
メインエンジンがIDLEまで加速すれば、全電気系が作動可能です。そこで各計器をチェックし、異常の有無を確認します。

(9)JFSの減速を確認
エンジンが自力で回り始めると、JFSは自動的に外れて(JFSの)IDLE状態まで減速します。JFSの音で誰でも分かりますから、ご興味があればYouTubeなど確認してみてください。

米軍のF-15のエンジンスタート。JFSやエンジン始動の音が分かるので興味があれば聞いてみてください。コメントによると2:40 JFS Start 3:06 Engine start 4:50 2nd engine start 5:05 JFS cut offらしいです(YouTube「Al's Auto and Appliance」より)

 




次は同様に左側エンジンをスタートさせます。手順は右と同じです。

(10)左エンジンスロットルのフィンガーリフトをPULL
(11)回転数が約18%になったら、スロットルをIDLEに進める

(12)JFSのシャットダウンを確認
両エンジンが掛かると、JFSは自動的に停止します。

このようにしてエンジンスタートは完了しますが、実際は各種警報の点検とか計器チェックとかが入ってくるので、手順的にはもう少し項目があります。

なおF-15では、エンジンがIDLEに達すると、インテークランプが大きな音とともに少し下を向きます。地上でエンジン停止中のF-15とエンジン作動中のF-15のランプ位置を写真などで見比べてみれば、その差が分かるでしょう。

米空軍F-15CのエンジンがIDLEに達し、インテークの上部分がお辞儀をする瞬間(Image:DoD)

脚注

  1. JFS……ジェットエンジンの始動のみを行なう小型ガスタービンエンジン。Jet fuel starter
  2. 臨界発動機……複数あるエンジンが故障した場合に,飛行性に最も不利な影響を与えるエンジンのこと
  3. ヒステリシスを消すため……機械的な装置は系統の中で誤差が発生する。例えばスロットルなら、ケーブルのたるみなどでスロットルの厳密な位置がエンジンまで伝えられない場合がある。そこでそのヒステリシス(≒誤差)を消すため、スロットルを望むの位置にしたい場合は、少しオーバーシュートさせてから戻すと、正確な位置に近づけることができる(なお、今の機械は昔ほどガタはないし、多くが電子化されていてヒステリシスは無視してよいレベルなので、この操作は必要ないかもしれない)

渡邉吉之・著
『戦闘機パイロットの世界
“元F-2テストパイロット”が語る戦闘機論

飛行時の体感から、計器・HUDの見方、エンジンスタートから着陸までの手順、空戦やマニューバー、失速や緊急時の対応方法まで!

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渡邉吉之元航空自衛隊パイロット、テストパイロット
(わたなべ・よしゆき)
1951年東京都生まれ。防衛大学校を経て航空自衛隊へ入隊。第8航空団(築城基地)でF-4EJ、飛行開発実験団(岐阜基地)でF-15J戦闘機などのテストパイロットとして勤務。操縦経験機種は各種戦闘機のほか、グライダー、軽飛行機、練習機、大型輸送機、ヘリコプターなど30機種におよぶ。
1990年、F-2支援戦闘機の開発のために三菱重工業に移籍。新製機や修理機のテストフライトを担当し、設計の改善等をアドバイスする。1995年、F-2の初フライトを成功させる。その後、同社の戦闘機の生産拠点である小牧南工場の工場長などを務める。
著書に『戦闘機パイロットの世界』(パンダ・パブリッシング)、共著に『零戦神話の虚像と真実』(宝島社)がある。