コンピュータの力で、昔と比べて超簡単に!?─④エンジンスタート

JFSは飛行中のエンジン再起動にも使用可能

ちなみにJFSは、空中でのエア・スタートでも使うことが可能です。JFSの圧縮空気のボトルは2本あって地上なら2回使えますが、上空では確実性を持たせるために2本同時に使うので、その一度で駄目だと、、、残念な気持ちになります(笑)。

ただ、両エンジンが止まってしまうケースはほとんどなく、(JFSを一度使用しても)数分で動いているもう1基のエンジンによってJFSの圧縮空気が再蓄圧されますから、それほど心配はいりません。

そうは言っても(両エンジンが止まる)確率はゼロじゃない! と心配される方もいるかもしれませんが、万が一のときは、エンジンは「押し掛け」が可能です。むしろ通常はどんな戦闘機もこの押し掛けでエンジンを空中スタートさせます。

機体を適当な高度まで降下させることで450ノット(約833km/h)程度まで加速させます。その高度および速度に達したら、止まっているエンジンのスロットルをIDLEまで進めれば、エンジンは再び掛かるはずです(止まってしまったエンジンのスロットルは、通常CUT-OFF位置に戻っている)。

降下するF-15(Image:U. S. Air Force)

私の経験では、F-4EJで2回ほど上空にてエンジンが止まってしまったことがあります。1回は空中での再始動に成功し、もう1回は再始動しませんでしたが、エンジンは1本動いていればそれほど心配はいらないので無事に着陸しました。

またF-15では、常に空中再始動の試験がありましたので、空中再始動は通常手順でした(笑)。ニュースや映画でエンジンが1基停止して大騒ぎになる状況がありますが、実はそんなに騒ぐようなことではありません。

もしあなたが乗客として搭乗している飛行機の1基のエンジンが何らかの理由で止まっても、全く心配はいりません。冷静になってその風景などを動画に撮り、後日ネットにアップしてSNS映えすることでも考えていた方が良いと思います(笑)。




地上だとJFSは2回使えますが、もしそれ以上の回数が必要な場合は、地上なら整備員が手動で圧搾空気を機体にため込んで、その力でJFSを回すことも可能です。ただし、30分程度の時間が必要になります。

JFSを使ってのエンジンスタートは整備員とのコンビネーションも必要ないので、気軽にエンジンスタートすることができます。

逆に言えばF-15はバッテリーが搭載されていないので、JFSが作動するまではただの“金属の塊”です。何も動きません(手巻きの時計だけ1は動いていますがね!)。

F-15のエンジンスタート等の準備をするパイロットと整備員。整備員はインターフォンを有線でF-15とつなげているが、エンジンスタート前は電気がないので通信もできない(ヘッドフォンはイヤーマフも兼ねている)(Image:DoD)

脚注

  1. 手巻きの時計だけ……現代の飛行機でも時計とマグネチック(磁気)コンパスだけは電動ではない。現代ではほとんどありえない話だが、昔のパイロットは最悪、時計とマグネティックコンパスだけあれば帰投できたと言われているので、ひょっとしたらその名残かもしれない

渡邉吉之・著
『戦闘機パイロットの世界
“元F-2テストパイロット”が語る戦闘機論

飛行時の体感から、計器・HUDの見方、エンジンスタートから着陸までの手順、空戦やマニューバー、失速や緊急時の対応方法まで!

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渡邉吉之元航空自衛隊パイロット、テストパイロット
(わたなべ・よしゆき)
1951年東京都生まれ。防衛大学校を経て航空自衛隊へ入隊。第8航空団(築城基地)でF-4EJ、飛行開発実験団(岐阜基地)でF-15J戦闘機などのテストパイロットとして勤務。操縦経験機種は各種戦闘機のほか、グライダー、軽飛行機、練習機、大型輸送機、ヘリコプターなど30機種におよぶ。
1990年、F-2支援戦闘機の開発のために三菱重工業に移籍。新製機や修理機のテストフライトを担当し、設計の改善等をアドバイスする。1995年、F-2の初フライトを成功させる。その後、同社の戦闘機の生産拠点である小牧南工場の工場長などを務める。
著書に『戦闘機パイロットの世界』(パンダ・パブリッシング)、共著に『零戦神話の虚像と真実』(宝島社)がある。