コンピュータの力で、昔と比べて超簡単に!?─④エンジンスタート

F-2の場合──基本、飛行機にお任せで大丈夫

F-2のエンジンスタートはさらに簡単です。

なぜならエンジンが1基しかないので、各エンジンの連携やJFSの切り替えがないからです。また、F-2にはバッテリーがあって最初から計器や警報などすべてが作動状態ですので、F-15のようにエンジンが掛かってから各種警報や計器の作動点検などを行なう必要がないのです。

航空自衛隊のF-2と米空軍のF-16(奥)(Image:U. S. Air Force)

実際の手順を説明しておきましょう。

(1)JFSをスタート
スタートスイッチを押します。

(2)メインエンジンが10%になったら、スロットをIDLE位置に進める
JFSは十分加速すると、自動的にメインエンジンに接続されて(メインエンジンを)回し始めます。メインエンジンの回転数(%)がIDLE近くになれば、JFSは接続が自動的に外され、停止します。

(3)JFSの自動停止を確認

(4)エンジンの温度や回転数、燃料流量などの数値に異常がないことを確認
言葉通りですが、もし異常があれば、F-2が勝手にエンジンスタートを中止してくれているはずなので、動いているなら異常はないということでしょう。

F-2のエンジンスタートの様子(YouTube「RUNWAY FUN」より)

 

基本的には以上になりますが、飛行機全体をコンピューターが監視しているので、全部F-2にお任せで問題ありません。パイロットはJFSスイッチを押して、適当な時期にスロットルを進めるだけです。

(一昔の飛行機に比べると)超簡単な手順になりました。これからの飛行機はエンジンスタートで気を使うことはなくなって、車と同じ感覚になるのでしょう。

二人が持っているのがF-16用のJFS。写真はアビアノ空軍基地にてF-16へJFSを装着させている米空軍の整備員(Image:U. S. Air Force)



現代戦闘機のエンジンスタートは超簡単!

現代のエンジンは完全にコンピュータで監視されていて、エンジンスタートに失敗することはほとんどありません。昔はパイロットが排気温度や回転数を見ながら注意深くエンジンスタートしていましたが、現代はJFSのスイッチの位置さえ分かれば、誰でもスタートさせることができるでしょう。

基本、JFSを稼働させ、その後適当なタイミングでスロットルをIDLEに進めるだけです。適当なタイミングとは、自分の気が向いたときです(笑)。

仮にそのタイミングが早すぎても燃料は流れませんし、遅すぎてもエンジンは燃料が来るのを待っていてくれるので、本当に適当なタイミングで構いません。極端なことを言えば、スロットルをIDLE位置に最初に出しておいて、その後JFSを押せばエンジンがかかるかもしれません。まあ、かなりの冒険になりますがね!

F-35Bのエンジンスタートの様子(YouTube「Blaze Wizard」)

 

エンジンがかかれば、電子機材も生き返り、すべての計器が作動し始めます。各機材のスイッチはすべてONにしておけば、全部が普通に立ち上がります。

もちろん、これらすべての機材に故障がなく100%正常である必要があります。どこかにエラーや故障があると、それが原因で戦闘機自体を壊す可能性もあるので、普通の任務のときは、エンジンがかかって電圧や周波数が安定した後に、各々の機材の電源を上流から入れる方がいいでしょう。

イメージとしては、まず発電機を入れて、次にメインコンピュータ、サブコンピュータ、各種表示機、各種センサー……という感じです。末端の機器の電源スイッチを入れておくと、突然大電流が流れて故障の原因になる可能性があるので、上流から入れるのが普通です。

渡邉吉之・著
『戦闘機パイロットの世界
“元F-2テストパイロット”が語る戦闘機論

飛行時の体感から、計器・HUDの見方、エンジンスタートから着陸までの手順、空戦やマニューバー、失速や緊急時の対応方法まで!

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渡邉吉之元航空自衛隊パイロット、テストパイロット
(わたなべ・よしゆき)
1951年東京都生まれ。防衛大学校を経て航空自衛隊へ入隊。第8航空団(築城基地)でF-4EJ、飛行開発実験団(岐阜基地)でF-15J戦闘機などのテストパイロットとして勤務。操縦経験機種は各種戦闘機のほか、グライダー、軽飛行機、練習機、大型輸送機、ヘリコプターなど30機種におよぶ。
1990年、F-2支援戦闘機の開発のために三菱重工業に移籍。新製機や修理機のテストフライトを担当し、設計の改善等をアドバイスする。1995年、F-2の初フライトを成功させる。その後、同社の戦闘機の生産拠点である小牧南工場の工場長などを務める。
著書に『戦闘機パイロットの世界』(パンダ・パブリッシング)、共著に『零戦神話の虚像と真実』(宝島社)がある。