ジェットエンジンの場合、コックピット内は静かで振動もなし
私が初めて飛行機のエンジンを自力で掛けたのは、T-34という単発プロペラ機です。通称メンターと呼ばれている機体です。この飛行機は超古典的な飛行機で、レシプロエンジンを搭載していました。
今考えれば車のエンジンと同じですが、目の前でプロペラが回り始めて、音と振動がコックピットを包むと、それまで徹夜で覚えていたエンジンスタート後の手順がぶっ飛んでしまって、もう何も思い出せなくなりました。今思えば、初回はエンジンさえ掛かれば、合格なのでしょう(笑)。同期の皆にも聞いてみたところ五十歩百歩でしたので、こんなものなのでしょう。
これと比較するとジェットエンジンはコックピット内では振動もなく音も静かで、心穏やかに手順を進めることができます。
エンジンスタート手順と制限事項だけは知っておく必要があり!
ちなみにテストパイロットが覚えるのは、その機体のエンジンスタートの手順程度で、その後はチェックリスト(手順と注意事項)を見ながらでもOKです。しかしエンジンスタートは自分のペースではなくエンジンのペースに合わせる必要があるので、その手順だけは覚えておかなくてはいけません。
その他にテストパイロットが知っていなければならない情報は、緊急手順とか性能とかではなく、厚いマニュアルの第5節に記載されている「制限事項」です。
具体的には最大速度や最大荷重、禁止機動、禁止操舵など山ほどありますが、各種武器の発射とかにもいろいろ制限があります。
とくに最大速度や荷重は、それぞれの形態によって異なりますので注意が必要です。例えば最大速度はマッハ2.5とされていても、それはクリーンの状態(搭載物がない場合)の話で、増槽タンクなどを懸架した場合はマッハ1.6とかになります。
制限事項については警報も出ませんし、知らなければ飛行機を壊してしまい、最悪墜落してしまうことになりますので、この情報だけはしっかりと覚えておく必要があります。
とは言っても、F-15を含む以前の機体ではエンジンスタートに関して多くの注意事項がありましたが、現在はすべてコンピューターがモニターしてくれて何かヤバければ機体自らがエンジンスタートを止めてくれるので、とても安全です。
ただし相手は機械ですから、監視コンピューター自体が壊れている可能性もありますので、計器類をそこそこモニターしておく必要はありますけどね。
F-4以前などの昔の飛行機では、エンジンスタートで一番大事なのはEGT(排気温度)のモニターでした。これが制限値を超えそうになったら、エンジンスタートを止めなくてはいけません。さもないとエンジンタービンが融けてしまうからです。
これら制限事項については別の回に回して、エンジンスタートが無事にできたので、次回はプリタクシーチェックのお話をしたいと思います。
連載「戦闘機パイロットの世界2」第10回─終─
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