円環式照準器の距離の測り方[測距]
さて、このように照準の方は単純明快ですが、相手までの距離を知る、すなわち射程に捉えたかどうかを知るための測距はどうすればよいのでしょうか。
これは手前の円環を使って読み取ります。
なお、戦闘機の照準器は第一次世界大戦から第二次世界大戦にかけて、円環式→筒式→光学式→光学式ジャイロ搭載といった具合に進化しました。
この過程で、狙いを付ける「照準」に関しては装置の進化に合わせて同時に進化するのですが、距離を測る「測距」に関しては最後まで円環測距であり、原理的には射撃用レーダーが登場するまで変わりませんでした。
この円環測距については、第1回でも見たアメリカ海軍のマニュアルを再度引用します。
勘のいい人は図を見ただけでピンと来たと思いますが、円環式照準器と射手の目がつくる直角三角形を利用した測距になっています。
このため、射撃手の目の位置(図のA)は照準リングから20インチ(約51センチ)と厳密に指定されています。
もちろん、その距離を確認できる装置はないので精度はどうしても落ちるのですが、この点は避けられない誤差として諦めるしかありません。
測距の方法は、まず、この照準円環いっぱいにHe177が見えるようになった段階で考えます。
He177の機体中心部から主翼の端までを示すE−Dの長さは、[図2]にあるように約50フィート(約15.2メートル)でした。厳密にはもうちょっと長いのですが、多少の誤差は無視して数字を丸めてしまうメリットの方が大きいので、これで大丈夫です。
ただしアメリカ式単位だと、フィートとインチとヤードが乱舞して訳の分からない計算になるので、ここではメートル法に換算して説明します。
[図2]では円環式照準器の中心と目の距離であるA-C間は約0.51メートル、円環の半径B-Cは約0.05メートルです。
そして、これらは直角三角形ABCを成しています。
そしてこのとき、同じく視点を頂点とし、He177の片翼の長さを含む相似の直角三角形ADEが成立しています。
ここで主翼幅であるDEは先に見たように約15.2メートルでした。これは円環半径BCの約0.05メートルに対し304倍、ほぼ300倍ですね。
となると、辺ACに対応する辺AE、つまり敵機までの距離も0.51メートルの約300倍になるので153メートル、すなわちざっと150メートル先にいるということになります。
よって弾道の集中点より手前、すなわち射程圏内に捉えているということがこれで分かります。
これが円環による測距で、のちに射撃レーダーで簡単に正確な距離が測れるようになるまで、この原理がずっと使われることになりました。
ここで余談ですが、この[図2]の敵機は、シルエットで分かりにくいですが、ドイツの超マニアックな四発爆撃機He177です。
いや、エンジンは二発しかないじゃんと思うかもしれませんが、これはエンジン×2基で一つのプロペラを廻すという奇怪な四発エンジン機なのです。まあ、ドイツらしいチャレンジャーな爆撃機と言えます。
一応、実戦投入はされましたが、製造数は限られていたので、ドイツを代表する機体とは言い難いものがある気がします。なぜまたアメリカ海軍のマニュアルがこんな機体を掲載しているんでしょう(笑)。
この爆撃機に関しては、ハインケル社の社長エルンスト・ハインケルの自伝『嵐の生涯―飛行機設計家ハインケル』(エルンスト・ハインケル(著)、松谷健二(訳)/フジ出版社)の中でいろいろ興味深い話が出てきますから、興味がある人は一読をお勧めします。
コメントを残す