第2回 最初の航空機用照準器の登場──円環式照準器

現実的な運用法

話を円環式照準器での測距に戻します。
ここでHe177が円環より大きく見えるなら、計算するまでもなく射程内であるという点に注意してください。

実際の空戦中にこんな計算をやっている暇はありませんから、「敵機が円環と比べてどのくらいの大きさに見えているかによって、(敵機が)射程内に入ったかどうかを判断する」というのが現実的な運用となります。

のちに光学式照準器が登場すると、連合軍側の場合、敵機の種類ごとに円環の大きさをスイッチ一つで変換できるようになりました。これなら円環より大きく見えたら射程内とすぐ判断でき、極めて有用な機能です。まあ、日本の照準器にはなかった機能ですが。

[図5]のちに登場する光学式照準器

そういった調整装置がない場合は、敵機の種類ごとの大きさを調べ、それが射程に入ったとき、円環に対してどのくらいの大きさに見えるかを前もって知っておく必要があったということです。
もっとも第二次世界大戦期の場合、ほとんどの単発戦闘機は全幅も全長も10メートル前後だったので、それさえ覚えてしまえばなんとかなりました。

ただし同じ単発機でも、爆弾や魚雷を積んで二人乗り以上となる艦上爆撃機や艦上攻撃機は一回り大きくなるので要注意となります。
これらを戦闘機だと思って円環を見ながら近づくと、接近しすぎになります。これは相手の後部銃座の射程圏内に先に入ってしまうことを意味します。

この場合、敵は後ろから追いかけてきているのが戦闘機だと分かっていますから、距離を正確に判断でき、確実に先に射撃を開始するでしょう。それに対してこちらはまだ射程外だと思い込んでいるので、一方的に先制攻撃を受けることになり極めて危険です。

実際、こういうケースは結構あったようです。ゼロ戦エースの一人、坂井三郎さんが戦闘機と勘違いしてSBDドーントレスに接近し、後部銃座にやられたケースも、この事例に近いでしょう。

大きすぎて円環をはみ出してしまった大型爆撃機

ちなみに双発爆撃機もほとんどが全幅20メートル前後となっていて、これも特に機種ごとに正確なデータを覚える必要がありませんでした(日本海軍の双発爆撃機は25メートルとややデカいのだが、アメリカ側からすればこの数字だけ覚えればいいので、これも問題ない)。

やっかいなのはずっと大型な、アメリカやイギリスの四発エンジン重爆撃機でした。B-17だと全幅は32メートルで双発爆撃機の1.5倍もあるため、大きさの感覚が掴めないのです。
さらに大戦初期の照準器の円環は、双発爆撃機を最大として設定されているものが多かったようです。そのため四発爆撃機に射程まで近づくと、敵機は大きくはみ出してしまい距離が掴めなくなります。

[図6]全幅12.66mの艦上爆撃機SBDドーントレス(右)と全幅43.04mのB-29大型爆撃機(左)を並べた図。円環式照準器の想定設計を上回る大きさのため、測距を行なうことが難しかった(Illustration_left:MLWatts/right:Kaboldy)

この結果、訓練で双発爆撃機に慣れているパイロットは、円環いっぱいに広がった段階で撃つ癖がついてしまっており、四発爆撃機に対して弾道の集中点よりはるかに遠距離から射撃を開始してしまい、無駄弾を使うことにもなったようです。

この点は、南方戦線でB-17などを相手にした日本のパイロットの悩みの種でもあったとされます。そしてのちにさらに大型なB-29が登場すると、より面倒な話になっていきます。

ちなみに敵機の大きさをきちんと把握するため、真正面もしくは真横から見るのが理想なのですが、すでに述べたようにそこまで厳密な数字は要らないので、このあたりも勘で丸めてしまっていい部分です。

とりあえず今回はここまでです。
次回は、光学式の技術が初めて導入されたアルディス式の筒型照準器を見ていきます。

連載「いかにFCSは生まれたか」第2回─終─

夕撃旅団・著
『アメリカ空軍史から見た F-22への道』 上下巻

究極の制空戦闘機F-22は、どのように生み出されたのか。その背景を、アメリカ空軍の成り立ちまで遡って考察していく1冊

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著書に『ドイツ電撃戦に学ぶ OODAループ「超」入門』『アメリカ空軍史から見た F-22への道』上下巻(共にパンダ・パブリッシング)がある。