平行光レンズにより光線をすべて平行光に整える
ここで登場するのが平行光レンズです。コリメーターレンズとカタカナ英語で表記されることが多いですが、平行光くらい日本語で書いたらどうかと個人的には思うので、ここでは平行光レンズで押し通します。
これは次の[図5]ようなレンズです。
光源から放射状に広がる光がこのレンズを通ると、すべて平行光に整えられます。すなわち、遠くにある物体と同じ光線角度に変換されてしまいます。
目の前にある照準器内の円環でも、このレンズを通して見ると遠方から来た光線と同じように見えます。
よって、両者に対して同時に目のピントを合わせることができてしまうのです。
アルディス式筒型照準器では筒内に4枚前後の平行光レンズを持っています。
これにより、筒内の照準&測距用の円環と、200メートル以上先を飛んでいる敵機を同時にはっきりと見ることを可能にしたのでした。
このような目の前にある表示を平行光に変換し、遠方の敵機や風景に重ねて見せる原理は後の光学式照準器からヘッド・アップ・ディスプレイ(Head-Up Display:HUD)に至るまで変わっていません。
ある意味、“近代照準器の元祖”と言えるのがこのアルディス式なのです。
[図6]は次回に取り上げる光学式照準器の円環の写真で、原理はアルディス式と同じです。円環にピントが合っていますが、照準器本体はピントがボケている点に注意してください。
この[図6]の写真の中でピントが合っているのは円環と、遠方に見えている機体(少し見えづらいが、円環の中心の少し左側に見える)の2ヵ所なのです。
これが平行光レンズの効果で、この円環は目の前に投射されているのに、遠方にある物体(敵機)と同じ光線になっています。
この結果、パイロットは遠くの敵機を見ながら、円環をはっきりと視認して照準と測距を行なえることになります。
アルディス式の限界
とりあえず新時代の照準装置だったアルディス式ですが、欠点もありました。
最大の問題は直径の小さい筒形だったことで、空戦中にこれを覗きこむのはかなり大変でした。
しかも高速で動く敵戦闘機が見えるのは一瞬なので、ちょっと油断すると射撃できずに終わります。この点、直径を大きくすると照準が大雑把になりすぎるので、それはできない相談でした。
空戦中に覗きこむ必要がある点では円環式でも難易度は同じはずですが、あちらは多少ずれても照準越しに敵機は見えているので、一度見失っても追尾は楽だったのです。
この点を嫌ったパイロットも多く、[図2]の戦闘機S.E.5aに旧式な円環式照準器がまだ残してあったのは、こちらを好んで使うパイロットが少なくなかったからです。
そして直径の小ささは測距用円環の小ささに直結するので、敵機が徐々に大型化してくるとまともな測距はできなくなりました。
日本陸軍は太平洋戦争開戦後もこの眼鏡式(アルディス式の日本式呼称)でしばらく戦ったのですが、これでB-17相手に測距しろ!とか言われてもなあ、という世界でしょう。
ただし、それでも有用なのは事実だったので、実際、第一次世界大戦中にこれを回収したドイツ軍は光学天国ゲルマンでやるゲルマン!とさっそくコピーしています。
しかし、そのアルディス式のコピー照準器は使い物になりませんでした。理由は簡単で、地上に比べてはるかに気温の低い上空に行くと、温度差でレンズが曇ってしまい、何も見えなくなったためです。
この謎は終戦になるまでドイツでは解けなかったのですが、(イギリスは)実は完全密閉された筒内には不活性ガスを封入してあり、曇り止めとしていたのでした(普通に考えればアルゴンガスだが、確認できず)。
さて、いろいろ画期的ながら以上のような問題を抱えていたアルディス式筒型照準器ですが、その問題を一気に解決する手段が、次の光学式照準器でした。
次回はこれについて見てゆきましょう。
連載「いかにFCSは生まれたか」第3回─終─
全ての回を楽しく拝見させて頂いています!
実際に覗き込んで見える様子や種類について、自ら調べるには相当な知識を要する為、今後も様々なものを紹介して頂けると嬉しいです。
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記事を読んでいただき、ありがとうございました。
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