第4回 周囲に気を配りながら素早く照準できる──光学式照準器

近くのレティクルと遠くの敵機にピントが合う

[図4]は第3回でも紹介した第二次世界大戦期の光学照準器(Mk.8照準器)です。

[図4]イギリスが開発し、アメリカ軍が採用した光学式照準器であるMk.8照準器(Photo:夕撃旅団)

反射ガラス上に投射されたレティクルと、奥の機体の両方に対し、同時にピントが合っている点に注意してください。(原理はアルディス式筒型照準器と同じ。第3回参照)
それに対して、反射ガラスと同じ距離にある照準器本体はピンボケしています。このことから、平行光レンズを使った照準装置であることが分かるでしょう。

このように目の前の反射ガラスに平行光で投影する構造なら、目のピントの問題は発生せず、敵機と円環を同時に両目で見ることができました。

余談ですが、レティクル(reticle)は網状のものを指すラテン語なので、こういった複雑な照準円環はレティクルで問題ありませんが、第3回で見たアルディス式筒形照準器の中にある単純な円環は厳密にはレティクルとは呼べません。
といっても厳密な定義ではないので、英語圏の人間でも照準器にある円環はなんでもレティクルと呼んでいるようです。

 

ちょっと見づらいですが、手前の楕円形の反射ガラスの奥に、さらにもう一枚、暗い色の楕円形のガラスがあるのが分かるでしょうか。これは遮光ガラス(Sun filter)です(日本軍では減光フィルターと呼んでいたらしい)。

電球の光で投影しているレティクルは太陽光で見づらくなるため、この暗い遮光ガラスを背面に置いてはっきりと見えるようにしています。雨天などで暗い場合は、これを横に倒して視界から外すことも可能です。
ただし、これは最初から付けていなかった場合もあるようです。晴天下でも意外にはっきり見えたのでしょうかね。

測距のしくみ

まず測距に関しては、当然、レティクルの円環を使います。その原理は円環式照準と変わりませんから、これも説明は省きます。(第2回参照)
ただし同じ原理である以上、レティクルを見る目の位置は指定された距離に置かれなければなりません。

ちなみに当時、照準器について最先端を行っていたのは常にイギリスとドイツで、連合国側ではイギリスがその技術的な供給源になっていました。
このためアメリカの陸軍・海軍共に、その光学式照準器はイギリスから技術供与されたものを使っています。

 

そしてイギリス製の光学式照準器の特徴に、ダイヤルによって投影される円環の大きさを変えられるという点があります。
これなら狙う相手が戦闘機の場合は小さい円環に、大型爆撃機の場合は大きい円環を簡単に設定することができ、敵機が円環いっぱいの状態になったら射程に捉えた!と即座に判断可能でした。

なにせ誰もが限度一杯いっぱいの状態で戦う空中戦においてパイロットの判断力はどうしても落ちるので、こういった単純化は重要でした。

第二次世界大戦後半になると、イギリス軍の照準器にはドイツ機の名前が書かれたダイヤルが付けられ、目標となる機体の場所に合わせるだけで自動的に円環の大きさを変えられるようにまで進化しています。[図5]
ただし、アメリカ軍はそこまでやっていなかったようです。


[図5]第二次世界大戦中の空戦のメカニズムを解説したイギリス空軍の公式映像。スピットファイアに搭載されていた光学式照準器には、ダイヤルに左からFw200、Me177、Ju-88、Me210/110、Fw190、Me109といった設定が付いており、それによって円環の大きさを調整できたことが分かる(動画の4:38あたりから)

夕撃旅団・著
『アメリカ空軍史から見た F-22への道』 上下巻

究極の制空戦闘機F-22は、どのように生み出されたのか。その背景を、アメリカ空軍の成り立ちまで遡って考察していく1冊

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(ゆうげきりょだん)
管理人アナーキャが主催するウェブサイト。興味が向いた事柄を可能な限り徹底的に調べ上げて掲載している。
著書に『ドイツ電撃戦に学ぶ OODAループ「超」入門』『アメリカ空軍史から見た F-22への道』上下巻(共にパンダ・パブリッシング)がある。