第5回 高速で動く敵機に当てるための照準器の工夫とは?──敵機の未来位置を撃つ方法

「円環を使って」敵機の未来位置の予測する方法

ここで再び、アメリカ海軍が作成した『Aircraft FIRE CONTROL 1944年版』の説明を使用して、そのあたりの対策を見ておきます。

まずは最も単純な条件として、「敵機がちょうどよい射程の距離(弾道集中点の位置)を、直角方向に直線で横切る場合」で考えます。

[図3]『Aircraft FIRE CONTROL 1944年版』に出てくる、円環照準器の円環を使って敵機の未来位置を測る方法

第1回で説明したように、円環の前方にある棒の先に付けられた点(A)が、円環式照準の真ん中に来るように視点を調整します。

このとき、[図3]のように弾道と直角に交差する方向を飛ぶ敵戦闘機に照準を合わせるなら、(敵機の)進行方向の先[未来位置]を狙わないとなりません。よって[図3]のように、照準は敵機の鼻づらの先に向けることになるのです。

問題は、敵機のどれだけ先[距離]を狙えばいいのか、という点ですね。

「円環の枠に敵機がいる」ときが撃つタイミング

この場合、敵機が弾道の集中する距離、つまり300ヤード(約274メートル)前方を横切るなら、内側と外側の二つの円環によって敵機の未来位置の推測ができるように作られていました。

まず、敵機が時速100ノット(時速約185キロ)前後という低速のときは、内側の円の上に敵機を重ね(ちょうど[図3]の状態)、敵機がより高速な時速200ノット(時速約370キロ)のときは、同じように外側の円に重ねて撃てば、弾は敵機の未来位置に飛んでいく、という仕組みです。

なお、『Aircraft FIRE CONTROL 1944年版』は海軍の機体速度表示なので、単位は海里/時=nm/hです。すなわちノーティカルマイル単位で、1ノット=1海里=1nm=1,852メートルとなります(ちなみに厳密に述べるなら、当時のアメリカ海里は現在の国際標準値より約1.25メートルほど長い、約1,853.25メートルとなる)。

この点は日本も同じで、海軍機はnm/h、陸軍機は㎞/hが単位速度となっていました。

このため内側の円環を「100ノットリング」、外側の円環を「200ノットリング」と呼びます。このように照準円環は敵機との距離を測るだけでなく、その未来位置の予測にも使えるように工夫されていたわけです(繰り返しになるが、アメリカ陸軍の速度単位はマイルになるので、円環の大きさ、あるいは対応できる速度が異なる)。

ただしあまり現実的な手段ではなかった……

ただし高速側の時速370キロという設定も、軍用機の速度としては極めて低速です。このため直線飛行中の爆撃機や輸送機を襲ったり、あるいは巡行飛行中の戦闘機を真上や真下から不意打ちで襲ったり、といった極めて限られた場合にしか実用性はありませんでした。

さらに言うなら、そもそも自分の進行方向と直角に交わる線を飛んでいる機体の速度なんて計測のしようがないので、結局は勘に頼ることになります。

よって、あくまで目安であり、「ないよりはましかもしれないけど、実用性は低い」というものでした。

もっとも、例外もあって、爆撃機の側面銃座などの場合、自機も時速200キロ以上で飛んでいるため、敵戦闘機が最高速度で並行して飛んでいれば、その速度差から時速370キロというのは意外に現実的な数字となってきます。ただし横向きに撃つ場合、進行方向からの空気抵抗によって弾道が横に流れるという厄介な別問題もまた生じてくるのですが……。

とりあえず照準円環による未来位置予想の仕組みを紹介しましたが、基本的にはあまり現実的な手段ではなかったと思っていいでしょう。

[図4]B-17爆撃機の側面銃座(Photo:USAAF)

夕撃旅団・著
『アメリカ空軍史から見た F-22への道』 上下巻

究極の制空戦闘機F-22は、どのように生み出されたのか。その背景を、アメリカ空軍の成り立ちまで遡って考察していく1冊

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(ゆうげきりょだん)
管理人アナーキャが主催するウェブサイト。興味が向いた事柄を可能な限り徹底的に調べ上げて掲載している。
著書に『ドイツ電撃戦に学ぶ OODAループ「超」入門』『アメリカ空軍史から見た F-22への道』上下巻(共にパンダ・パブリッシング)がある。