コマの回転軸だけは最初の方向を維持することを利用する
さて、ではこれをどう利用するのか。
高速回転する中心軸付の円盤、いわゆるコマにはジャイロ効果が発生します。これにはいくつかの特徴があるのですが、今回必要なのは「高速回転するコマは外部から力を受け取らない限り、その回転軸の方向を維持し続ける」という点です。
よって、天体からの引力も空気抵抗も無視できる宇宙空間でコマを回せば、そのコマの中心軸は永遠に同じ方向を向いたままで回転しながら宇宙をさまよい続けることになります。
なぜそうなるの? と言えば、回転する剛体の運動というニュートン力学のなかでも最もやっかいな話が絡んでくるため、ここでの説明は省きます。ある程度知識がある人に向けて簡単に述べれば、回転で生じる角運動量1は、外部から力が加わらない限り変化することはない、すなわち高速回転が続く限り回転軸は同じ方向を維持し続ける、ということです(回転=加速度運動なのだから、慣性ではないことに注意)。
難しいと感じる人はとりあえず、「高速回転を維持する限り、回転軸はずっと同じ方向を向き続けるのだ」と単純に理解しておいてください。
よって、高速回転が維持されるコマを[図6]のよう自由回転する三軸の台座に収めると、装置全体がどの方向に傾いても、コマの回転軸だけは常に最初に向いていた方向を維持し続けます。つまり以後の装置全体の運動に関係なく、最初に装置が向いていた方角を知ることができるのです。
ジャイロ式照準器の基本的な動作原理
ここで、先に見た回転銃座にこの三軸ジャイロスコープを設置することで何ができるかを考えていきます。
まず、①敵機を照準器で捉えたら、三軸ジャイロスコープの回転軸をこれに向けて固定させます。後は②0.5秒間([図3]に見た弾丸の飛翔時間)だけ、照準器で敵機を捉え続けながら銃座を回転させます。
すると、③ジャイロスコープの軸が示している最初の方向と0.5秒後の銃座が向いた方向の成す角度がそのまま偏差の角度Aとなります。ちょっとややこしいので簡単な図にしてみましょう。[図8]
なんとなく分かるでしょうか。旋回中の速度が一定ならその角速度も常に一定なので、角度を一度測定できてしまえば、以後は簡単にその偏差を知ることができるということです。
正確な偏差が分かれば、装置が0.5秒後に自動的に固定されるように設定することで、細かい数字を読み取る必要はなく、以後はジャイロの軸を敵機に向けた状態で照準点(予測される未来位置)に向けて撃てばいいことになります。これがジャイロ式照準器の基本的な動作原理です。
とは言え、これはあくまで原理原則ですので、実際のジャイロ式照準器については次回、もう少し詳しく見てゆくこととします。
最後に余談ですが、三軸ジャイロスコープはコマを回す構造上、どうしても一定の大きさが必要になり、このため当時のジャイロ式照準器は弁当箱のように巨大なものとなりました。しかし21世紀の現在は同じ機能を持ったジャイロ(角速度)センサーチップがあるため、スマートフォンやタブレットにもこの機能が積まれています。
すなわち、やる気になれば、皆さんのスマホでジャイロ式照準器もつくれるのです(笑)。以上、脱線でした。
連載「いかにFCSは生まれたか」第6回─終─
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