第8回 実際の使用方法と残された問題点──ジャイロ式照準器3/3

それでも最後は勘頼みになる……

ただし問題もあって、調整した円環が対応する距離は一切表示されないので、どれだけグリップを回したかで判断するしかなく、最後はどうしても勘に頼ることを避けられませんでした。さらに敵機の大きさを正確に判断するには、ほぼ真後ろか真上に位置する必要があるのですが、実戦においてそれは極めて困難です。

このあたりを補うために、米陸軍航空軍などはマニュアルで細かい指示していたので、参考に見ておきます。

[図8]アメリカ陸軍のK-14ジャイロ式照準器マニュアルに載っている、正しく照準できている例(左列)と正しくない照準例(右列)

[図8]の左列が正しい例で、右列がダメな例です。ダイヤモンドの内側の点がつくる円環に敵機の主翼の左右幅を合わせる必要があるのですが、そのためには円環中央の点(Dot)と敵の機体の中央が一致するように調整せねばならず、実際に飛行中に合わせるのはかなり困難だったと思われます。

ちなみに左の正解例の一番下の図では、敵機の主翼幅がダイヤモンドの内側に届いていません。これは斜めから敵機を見ているため、主翼幅が正確に測ることができない例です。この場合、機体の全長から判断するのですが、全長は全幅(主翼幅)より短いのが普通なので、円環一杯に広がる前に撃てという指示です。とは言っても、このあたりもまた、ほぼ勘になってしまう感じです。

逆に、右の不正解例の一番下は一見、きちんと敵機を捉えているように見えます。しかし、よく見るとわずかに円環の内側から外にはみ出しているので不可という例です。これでもダメなのか……という感じですが、それほどジャイロ式照準器と敵機の距離の関係はシビアなのです。

このあたりの問題もあって、ジャイロ式照準器を使っても一向に戦果を上げられないパイロットと、嘘みたいに撃墜を量産し始めたパイロットに分かれてしまった、という話もあります。それでも多くのパイロットにとって、この照準器は大きな助けになったようですが。


使い手を選ぶも、連合軍戦闘機の戦果に大きく寄与

第二次世界大戦末期の連合軍は、ドイツや日本の戦闘機を相手に一方的ともいえる圧倒的な空戦を展開していきます。これは機体性能やパイロットの練度に加えて、このジャイロ式照準器の存在も大きな要因の一つだったはずです。この点は見逃されがちですが、その影響は少なくなかったと考えてよいように思います。

さて、これで航空機関銃による照準の問題はほぼ理想形になったのですが、すでに見たように測距の問題だけは、パイロットの勘に頼る部分が残ってしまいます。正確な射撃をしようとすればするほど、正確な測距は必須ですから、この問題を解決しないと航空機関銃の照準器は完全になったとは言えません。

その問題を解決するべく登場するのが、第二次世界大戦後のジェット戦闘機に搭載されたレーダー測距照準器であり、これで機銃時代の航空照準は完成型となるのです。よって次回はこれを見ていきます。

K-18ジャイロ式照準器(K-14の海軍版)について説明している米海軍の映像(YouTube「AWM Collection」より)

 

連載「いかにFCSは生まれたか」第8回─終─


夕撃旅団・著
『アメリカ空軍史から見た F-22への道』 上下巻

究極の制空戦闘機F-22は、どのように生み出されたのか。その背景を、アメリカ空軍の成り立ちまで遡って考察していく1冊

1件のコメント

1ページ目の「①最初に敵の位置をジャイロスコープによりマークする。」とありますが、このマークするためにはスイッチを押す又はトリガーを引くような手順を行うのでしょうか。

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管理人アナーキャが主催するウェブサイト。興味が向いた事柄を可能な限り徹底的に調べ上げて掲載している。
著書に『ドイツ電撃戦に学ぶ OODAループ「超」入門』『アメリカ空軍史から見た F-22への道』上下巻(共にパンダ・パブリッシング)がある。