第1回 初期アサルトライフル──M14 vs. AK47(前半)

射撃の正確性(遠距離[300〜m])はM14

これがベトナムではなく、アフガニスタンや中東だったら違っていただろう。300mを超える遠くを撃つのであれば(反動は強いとはいえ)M14のほうが正確な射撃ができる。

7.9グラムの弾丸を1.6グラムほどの火薬で秒速730mで撃ち出すAKの7.62×39カートリッジよりも、9グラムの弾丸を3グラムの火薬で秒速850mで発射するM14の7,62×51カートリッジのほうが弾の速度も速いうえ、空気抵抗による威力低下も少なく、弾道の放物線もフラットで遠距離射撃には有利なのだ。弾の特性もそうだが、銃の照準器自体もM14のほうが精密にできている。

そもそも1発1発狙って撃つ場合、AK47というのは、あまり命中精度のよい銃ではない。M14は反動が強いので、初心者はまず反動に慣れる必要があるが、ちゃんと射撃訓練された兵士なら、M14を使って100mの距離で直径5センチの円に撃ち込むことはできる。

M-14ライフルを構えるアメリカ海兵隊兵士。写真は1966年7月、ベトナム戦争のメイコン作戦中のもの(Image:U. S. Marine Corps)

しかしAK47は100mで15~20cmにも散らばるのだ。300mの距離になれば、人体の大きさの的にM14は1発必中を期待できるが、AK47では数発に1発しか当たらない。まして山岳地帯で500mも離れた谷越えの向こう斜面を撃つと言うなら、M14のほうが圧倒的に有利である。

AK47の照門には1,000mまで目盛り(照尺)が刻まれている。その距離で撃てば敵兵の周囲十数mにポコポコと土煙を上げることはできるし、まぐれ当たりすればそれでも負傷する。M14の照尺は1,100mまであるが、腕の良い兵士がその距離で撃ったとすると、敵兵の周囲2~3mには土煙を上げられるだろう。しかしベトナムなのだ。

AK47の照門(リアサイト)の目盛り(照尺)部分。1から10まで100mずつ刻まれており、目標までの距離に合わせて矢印部分を動かすことで、照門の高さを調節する(Image:Erik Gregg)

とはいえ、ベトナムのどこもここも見通しの悪いジャングルというわけでもなく、遠距離射撃をしたい場合も、ままあった。水田の向こうの木陰に潜んでいるベトコンを撃ちたい、というようなことがある。

そこでM14のできのよいものにスコープを付けたM21狙撃銃というものが作られて狙撃任務に用いられた。これはその後登場した本格的な狙撃銃にくらべれば精度は劣るけれども、狙撃銃としては軽いし、オートマチックだし、新しい狙撃銃が出現してからも、けっこう使い続けられた。

狙撃任務のために、M14のスコープや銃床などを変更したM21狙撃銃。写真は2005年、イラクのモスル付近をパトロール中に、M21で脅威を探しているアメリカ陸軍兵士(Image:DoD)

また、アフガニスタンやイラクでの戦訓から、やはり7.62×51の威力は捨てがたい、ということでM14の近代化バージョンであるSOCOM IIといったものも出現した。

実は突撃銃の射程と命中精度をカバーするために「分隊狙撃銃」というようなマークスマンライフルが必要だということはAKを開発したロシア自身がよく分かっていて、そのためにドラグノフ狙撃銃が作られている。やはり万能の銃というものはなく、銃もどんな使い方をするかで適材適所ということだ。

 

連載「銃 vs. 銃」第1回─終─


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かのよしのり
1950年生まれ。自衛隊霞ヶ浦航空学校出身。北部方面隊勤務後、武器補給処技術課研究班勤務。2004年定年退官。
著書に『銃の科学』『狙撃の科学』『重火器の科学』『拳銃の科学』(SBクリエイティブ)など多数。