第1回 意外にも早くに始められていた中国のステルス研究──J-20の開発背景(1)

ロシアが驚くほど大規模に進められたステルス研究

ステルス研究では、航空機の配置や形状の検討のため多くの風洞模型が作成され、計画期間中に実施した風洞実験は約1万8,000回に達した。

そして1995年までに「超音速巡航性能・ステルス性能・高機動性」の3要件を満たす基本的な機体形状案として「大型LERX付き主翼」、「デルタ翼+前尾翼」、「主翼+水平尾翼+前尾翼」など、計5種が選定されている。

風洞実験によって機体形状を検討する一方で、実機を使った技術検証も行なわれた。

1995年より瀋陽の601研究所がJ-8Ⅱ(瀋陽航空機開発の双発戦闘機)を使用し、また成都航空機工業集団(以下、成都)の611研究所がJ-7Ⅱ(MiG-21の中国コピー生産版)戦闘機を用い、実機によるステルス特性の実地研究を行なっている。

J-7Ⅱステルス・テストベッド機(Image:Chinese Internet via Pinterest)

 

これらの研究は、RCS減少の具体的手法について検討したもので、「ノーズコーンやインテークリップ(インテークの縁部分)の形状や材質の変更」、「キャノピーへの金属コーティングによる電波透過低減」、「キャノピーなどの接合部への“のこぎり形状”処理(※3)」など、ステルス機開発に直接通じる技術手法を検証・確認した。

これらの研究を研修したロシア人技術者は「ロシアよりも大規模だ」と驚嘆したという。

この「三段階計画」の完了により、中国はステルス機開発に係る技術的基盤を確立したと言える。

(※3)キャノピーと胴体の境目や、開閉するパネル部分などの合わせ目を、電波反射防止のためジグザグ型に形成する処理

参考文献
・中国航空工業院士選書『情志藍天 記航空気動専門家 李天』(航空工業出版社、2011年4月)
・「現代艦船」2018年第10期、同2019年第6期、中国船舶重工業集団公司
・「航空知識」2018年第5期、航空知識雑誌社
・「航空ファン」2018年7月号、文林堂
・「百度百科 宗文驄
・「瀋飛4代戦機方案設計科幻

連載「元自衛隊情報専門官から見た中国戦闘機」第1回─終─

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薗田浩毅元自衛隊情報専門官、軍事ライター、ネイリスト
(そのだ・ひろき)
1987年4月、航空自衛隊へ入隊(新隊員。現在の自衛官候補生)。所要の教育訓練の後、美保通信所等で勤務。 3等空曹へ昇任後、陸上自衛隊調査学校(現小平学校)に入校し、中国語を習得。
1997年に幹部候補生となり、幹部任官後は電子飛行測定隊にてYS-11EB型機のクルーや、防衛省情報本部にて情報専門官を務める。その他、空自作戦情報隊、航空支援集団司令部、西部および中部航空方面隊司令部にて勤務。2018年、退官。