第3回 なぜ瀋陽案は敗れたのか──J-20の開発背景(3)

J-10の発展型にSu-27の空力技術を加えた機体

中国の二大戦闘機メーカーにおいて、瀋陽はJ-8やJ-11という、スタンダードな機体構成の戦闘機を手がけてきた一方、成都はJ-9(計画のみ)以来、前尾翼構成の戦闘機に拘り、30年もの時間を費やし、J-10でようやくその構想を開花させた。

J-10試作1号機(Photo:薗田浩毅)

デルタ翼と前尾翼の組み合わせは、ユーロファイター タイフーン、フランスのラファール、スウェーデンのJAS-39グリペンといった近年の戦闘機に続々と採用されている。

中国軍事工業誌に掲載された論文においては「フランスのラファールと、米F/A-18Cは、いずれもエンジン推力約15トン(ママ)、空虚重量約9トン(ママ)と類似している。

しかしラファールは加速性能、上昇性能、旋回性能、航続性能など、すべてにおいてF/A-18Cを凌駕していることは、デルタ翼+前尾翼による構成が持つ優位性を証明」と評価されている。

J-10は、イスラエルのラビやパキスタンのF-16の機体構造を参考にブレンディッド・ウイング・ボディを採用した先進的な機体設計であったが、F-16のLERXに見られるほど、胴体側にも揚力を持たせるような徹底した設計概念ではないとされる。

ブレンディッド・ウイング・ボディを採用しているイスラエルのラビ戦闘機。胴体と翼を一体的に滑らかに設計することで空気抵抗を軽減している(Photo_above:Israeli Air Force/Photo_below:Bukvoed)

 

J-20の開発に当たり、瀋陽は成都に対してSu-27の技術資料をすべて開示した。成都はSu-27の構造技術情報を参考に、大型のLERXや胴体部の空力技術などをJ-20に採用することとしたと言われる。

J-20の外観を見ればお分かりのとおり、決して即物的にコピーしている訳ではないが、Su-27の構造や技術はJ-20に受け継がれている。そして、これと大型の前尾翼の組み合わせにより、「J-20はF-22を凌ぐ揚抗比を持つ」と評価する論調もあるほどだ。

Su-27を上方から見た写真。主翼の付け根の前縁を前方に延ばした部分がLERXで、大きく迎え角をとった際に渦を発生させて、気流が剥離して失速が起きることを防ぐ効果がある(Photo:U.S. Army photo by Maj. Mike Humphreys)
Su-27の空力技術を受け継いでいるとされるJ-20のLERX部分(Photo:SinoDefence/Flickr)

中国空軍はSu-27の俊敏なピッチ特性を高く評価したと言われている。J-10の前尾翼は揚抗比の向上を得るほか、ピッチ制御に積極的に使用されていると言われ、この点はJ-20にも受け継がれている。

これらのことから、J-20は「J-10の機体構成を次世代戦闘機としてブラッシュアップし、フランカーの空力技術を組み合わせた機体」と捉えてよいだろう。

参考文献
・中国航空工業院士選書『情志藍天 記航空気動専門家 李天』(航空工業出版社、2011年4月)
・「現代艦船」2018年第10期、同2019年第6期、中国船舶重工業集団公司
・「航空知識」2018年第5期、航空知識雑誌社
・「航空ファン」2018年7月号、文林堂
・「百度百科 宗文驄
・「瀋飛4代戦機方案設計科幻

連載「元自衛隊情報専門官から見た中国戦闘機」第3回─終─

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薗田浩毅元自衛隊情報専門官、軍事ライター、ネイリスト
(そのだ・ひろき)
1987年4月、航空自衛隊へ入隊(新隊員。現在の自衛官候補生)。所要の教育訓練の後、美保通信所等で勤務。 3等空曹へ昇任後、陸上自衛隊調査学校(現小平学校)に入校し、中国語を習得。
1997年に幹部候補生となり、幹部任官後は電子飛行測定隊にてYS-11EB型機のクルーや、防衛省情報本部にて情報専門官を務める。その他、空自作戦情報隊、航空支援集団司令部、西部および中部航空方面隊司令部にて勤務。2018年、退官。