第6回 本当に「ステルス戦闘機」と呼べるのか?──J-20の性能検証(1)

J-20に求められたもの──ステルスとスーパークルーズ性能

中国は、2003年時点においてJ-20の本格的な就役を2020年頃と設定していた模様である。

なぜなら中国航空開発部門は情勢分析の結果から、米国の新世代戦闘機(F-22とF-35)の就役を2005年から2010年頃と見積もっていたからで、2010年前後には輸出も開始され台湾が2015年頃にF-35を入手する可能性に言及している。

そして、現状の戦闘機の改良では米国などの発展に追いつくことは不可能であり、新世代の戦闘機を自ら開発する必要があるとの認識に至っている。J-10やJ-11をいくら改良してみたところでF-22やF-35に対抗することは不可能なことを、彼らはよく理解していた。

しかし、中国の航空機開発が長足の進歩を遂げたとはいえ、米国には遠く及ばない。2003年時点において、中国航空開発部門は戦闘機開発に係る技術の格差について米国と比較して「20〜25年の遅れ」と自己分析したが(表1参照)、これまでの基礎研究の成果を活用し、2005年から2007年の間に短期集中して設計を固めれば2020年に間に合わせられるとしたようだ。

[表1]米ロ中の主力戦闘機と装備化時期

顧誦芬のメモによると、次世代戦闘機(西側でいうところの第五世代戦闘機)の具備すべき要件として、表2のように「ステルス」や「スーパークルーズ性能」などを掲げている。

[表2]中国の第“三”世代/第“四”世代戦闘機の分類
※1 中国の戦闘機世代区分は、西側の第一世代機と第二世代機を「第一世代機」としているため、世代を示す数字が若いものとなる
※2 Beyond-Visual-Range:視界外射程 ←→ WVR(Within-Visual-Range:目視内射程)



F-22よりやや劣るRCS値に設定

中国の航空開発部門は、作戦対抗すべき米国のステルス戦闘機の分析を通じて、レーダー反射断面積(RCS)0.1㎡と2㎡の作戦機の対抗シミュレーション解析を行ない、RCS 0.1㎡の機体は2㎡のものと比較して空戦能力は4倍になるとした。対地/対艦攻撃ミッションにおいても、RCS極限による被探知距離の減少で敵防空システムの火力範囲が短くなることにより、ミッション達成率とサバイバビリティーが大幅に向上するという推測を導き出した。

これらの結果から、中国航空開発部門は次世代戦闘機にF-22相当のステルス性能が必須であるとの認識に達したが、具体的なRCSの値を「0.3㎡程度」とした。F-22のRCSは、機首方向からレーダーを照射した場合は0.1㎡程度といわれるので、明らかに劣る目標値である。

これは、中国航空開発部門が認識している米国との技術格差を考慮し、早期に実現可能な数値を設定したと推測されるほか、中国の次世代戦闘機の想定される運用態様から他の手段において補完可能と判断された可能性がある(これについては次回以後の連載において述べる)。

より新しいF-35よりもステルス性能では優れているとされるF-22ラプター(Image:U.S. Air Force)

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薗田浩毅元自衛隊情報専門官、軍事ライター、ネイリスト
(そのだ・ひろき)
1987年4月、航空自衛隊へ入隊(新隊員。現在の自衛官候補生)。所要の教育訓練の後、美保通信所等で勤務。 3等空曹へ昇任後、陸上自衛隊調査学校(現小平学校)に入校し、中国語を習得。
1997年に幹部候補生となり、幹部任官後は電子飛行測定隊にてYS-11EB型機のクルーや、防衛省情報本部にて情報専門官を務める。その他、空自作戦情報隊、航空支援集団司令部、西部および中部航空方面隊司令部にて勤務。2018年、退官。