第6回 J-20の性能検証(1)──本当に「ステルス戦闘機」と呼べるのか?

大きなカナード翼はステルス性を下げているか?

J-20に対する批判的な意見に「ステルス機を謳っているにも関わらず、カナードがある」というものがある。では、果たしてカナードがステルス性能に悪影響を及ぼすというのは本当なのだろうか。

2010年に発表された西北工業大学の研究者による論文において、通常の翼配置(主翼+後方の尾翼)とカナード配置の対レーダー・ステルス性が比較されている。

同論文は、カナードを持つ航空機は持たない航空機よりも前方象限からのステルス性能は若干劣るとするものの、前縁後退角を大きくし、翼端の頂点(角となる部分)を整形処理して、かつ構造材にステルス対応の素材を使用すれば、容易に克服できるとしている。

 

なお、カナードの前縁の角度は反射角のルールに合わせ、主翼と後退角を併せているのは先述のとおりだが、J-20は検証機から原型機への過程において、当初、角張っていたカナードの翼端形状を、上記の論文に述べられたように角をとった形状へと修正している(この点、垂直尾翼の角も同様の処理がなされている)。

検証機(上)と原型機以降の機体(下)。カナードと垂直尾翼の後縁の角(黄色矢印の先)が、原型機以降では整形処理されているのが分かる(Image:[上]China Defense Blog/[下]Sunson Guo via flickr)

また、原型機の次のテスト部隊に引き渡された段階の機体(黄色のプライマー塗装のもの)は、カナード翼を含む各翼の前後縁などがのこぎり状の分割線に変更されている。これは構造材の継ぎ目を滑らかにするための対策であるとともに、色の違いはステルス性の高い複合材などが使用されたためだ。

第4・5回で紹介したように、J-20の開発機には①検証機→②原型機→③部隊に引き渡された機体/成都航空機の社内試験用という段階があるが、写真は③段階の成都温江(成都航空機製造公司が所在する飛行場)において、社内試験に従事していた機体。②の段階でカナード翼端の角張りがとられ、③の段階では縁にのこぎり状の分割線が入れられるようになっている(右上の写真参照)
(Twitterより。右上のロゴをクリックするとTwitterへ移動)

それでも「J-20のカナードは可動式であり、可動したカナード翼面がRCSを増やすため、ステルス対策上不利」という意見も存在するようだが、作戦中に高速で飛行するJ-20のカナードの動作範囲は小さなものであり(おそらく動作角は5度未満)、ステルス対策上で悪影響を及ぼすものではないだろう。

カナードを大きく傾けた状態のイタリア空軍のユーロファイター タイフーン。ステルス性能を活かして敵機や目標に近づく際は、通常、高速での直線的な飛行となるため、カナードを可動させることはあまりないとされる(Image:serzhile)

ステルスの話はもう少し続いて、次回はステルス材料について検証していきたいと思う。

■参考文献
・『顧誦芬文集』(顧誦芬、航空工業出版社、2016年3月)
・「現代艦船」誌 2018年10月号、2019年6月号、2020年07-08合併号(中国船舶重工業集団公司)
・「兵工科技」誌 2020年13号(陝西省科学技術協会)
・『一种小展弦比高升力飞机的气动布局研究』(宋文骢 論文、2001年8月)
・「表面技術」誌 2010年12月号(中国兵器装備集団有限公司)
・「现代技术陶瓷」誌 2019年第1-2期(山东工业陶瓷研究设计院有限公司)
・中華人民共和国国家知識産権局 特許申請第106163247号(2016年11月23日)
中国研制成功SH6隐身膜 水平领先世界
A Preliminary Assessment of Specular Radar Cross Section Performance in the Chengdu J-20 Prototype
中国新蒙皮技术或实用 比F22先进
北村淳、井上孝司ら多数(著), ジャパン・ミリタリー・レビュー, 2021年4月6日, ASIN : B08ZBM2XG1
連載「元自衛隊情報専門官から見た中国戦闘機」第6回─終─

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薗田浩毅元自衛隊情報専門官、軍事ライター、ネイリスト
(そのだ・ひろき)
1987年4月、航空自衛隊へ入隊(新隊員。現在の自衛官候補生)。所要の教育訓練の後、美保通信所等で勤務。 3等空曹へ昇任後、陸上自衛隊調査学校(現小平学校)に入校し、中国語を習得。
1997年に幹部候補生となり、幹部任官後は電子飛行測定隊にてYS-11EB型機のクルーや、防衛省情報本部にて情報専門官を務める。その他、空自作戦情報隊、航空支援集団司令部、西部および中部航空方面隊司令部にて勤務。2018年、退官。