第7回 中国が独自開発するステルス材料──J-20の性能検証(2)

中国のステルス塗料開発

一方、近年、中国のステルス塗料とされるアプローチが中国の化学メーカーなどから明らかにされている。

福建省の企業が、電磁波を吸収する特性を持つカーボン・マイクロ・コイル1を含む電磁波吸収塗料について特許を申請した。これは、複数の大きさのカーボン・マイクロ・コイルを含む金属粉や炭素繊維を混合した複合膜で、混合物の大きさを変更することによって数百MHz〜100GHzの間の所望の周波数に対応できるものとされる。

これはステルス塗料としては、広く行なわれている手法で、到来するレーダー波の電磁波を塗膜内の混合物により吸収し、熱エネルギーに返還する。それにより、その反射波を抑制するものである。比較的開発が容易である一方、先に述べたように重量や塗膜の弱さがその弱点である。

開発段階から電波吸収材を機体表面に使用していたF-117ステルス攻撃機。ステルス塗料は第二次世界大戦のドイツ海軍が潜水艦のシュノーケル部分に使用したり、ホルテンHo229爆撃機に使用される予定があったとされる(Image:DoD)



「他国のステルス塗料より優れている」

その他にも2014年6月、北京の新三海特殊材料有限責任公司という企業が「SH6複合多層膜」と呼ばれる製品の開発に成功したと中国の航空メディアが報じた。

この多層膜は、周波数帯8〜40GHzのレーダー波を10〜15dB減衰させるほか、赤外線の輻射(ふくしゃ)も減衰させることが可能とされる。同膜は1㎡あたりの重量が700グラムとされ、報道によると「明らかに各国で使用されている対レーダーステルス塗料より優れている」とのことだ。また、この評価とともに「国防特許2として申請する」とも報じられている。

脚注

  1. カーボン・マイクロ・コイル……炭素で構成される極小のコイル状の物質。電磁波を吸収する特性があることから、民生品では心臓ペースメーカーなどに応用されている。健康グッズとして売られている電磁波吸収ネックレスにもこれが使われている。ナノサイズのものはカーボン・ナノ・コイルとも呼ばれる。
  2. 国防特許……国防に必要とされる技術で、特に秘密保全が必要とされる技術に適用される中国の制度。国防特許に認定された技術については、国務院の国防科学技術部門と解放軍によって管理される。企業側には守秘義務が課せられるほか、民生品への応用は厳しく制限されることになる。しかし開発した企業には国家より安定した収入が得られ、また投資家へのアピールポイントとなるなどの利点もある。

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薗田浩毅元自衛隊情報専門官、軍事ライター、ネイリスト
(そのだ・ひろき)
1987年4月、航空自衛隊へ入隊(新隊員。現在の自衛官候補生)。所要の教育訓練の後、美保通信所等で勤務。 3等空曹へ昇任後、陸上自衛隊調査学校(現小平学校)に入校し、中国語を習得。
1997年に幹部候補生となり、幹部任官後は電子飛行測定隊にてYS-11EB型機のクルーや、防衛省情報本部にて情報専門官を務める。その他、空自作戦情報隊、航空支援集団司令部、西部および中部航空方面隊司令部にて勤務。2018年、退官。