第8回 これから登場するJ-20Bこそが「真の姿」──J-20の性能検証(3)

変更を繰り返すJ-20のエンジン

初飛行から部隊運用され始めた当初のJ-20は、ロシア製AL-31FNエンジンを装備していたものの、2017年からは国産の渦扇10(以下、WS-10)系エンジンの装備が開始された模様だ。

ノズルの形状からWS-10(渦扇10)エンジンを装備していると推測されるJ-20の写真(@Rupprecht_A氏のツイート。画像クリックでツイートへ移動)



国産のWS-10「太行」エンジンも「暫定的なもの」

ここで中国の軍用ターボファンエンジンであるWS-10「太行」にふれておこう。同エンジンが目標とした推力は10トン超で、当時の中国の技術からすれば極めて意欲的なものであった。

WS-10「太行」ターボファンエンジン。2009年12月、中国航空博物館にて撮影(Image:薗田浩毅)

WS-10の開発は1970年代末まで遡る。その頃始まったばかりの米中の軍事協力交流において、当時最新鋭であったゼネラル・エレクトリック(GE)社製F110エンジンのコアが民生用CFM-56と同じと知った中国航空開発部門は、1981年にカナダ経由でCFM-56を購入した。中国側はCFM-56のコアを元に、推力10トン超の軍用ターボファンエンジンを開発できるとふんだのだ。

しかし、経験に乏しい当時の中国航空開発部門にとって、軍用の高性能ターボファンエンジンの開発が簡単に行くはずもない。1990年代初頭、WS-10は当時開発中であったJ-10搭載用エンジンに選定されたものの、開発の遅れからロシア製AL-31FNにその座を奪われてしまう。

2000年代に入り、高温高圧に晒される新型タービン・ブレード製造のきん技術1に目処が立ったこともあり、実用機(J-11)に搭載した試験が開始されたが、実用試験中に補機類の能力不足などに起因するトラブルに見舞われ、実用化は2010年代に入ってからとなった。

それでも、2010年よりJ-11B以降の国産フランカーシリーズやJ-10Cにも続々と搭載が開始される。2017年には生産ラインがある成都温江において、「太行」を搭載したと推定される(J-20)2021号機の存在が認められた。

J-20に搭載されたものはWS-10Cと呼ばれるモデルとされ、B型において12.5トンであった推力は14トンにまで強化されているといわれる。WS-10シリーズは中国戦闘機の主力エンジンとなることは間違いなく、すでに年産400基程度を実現したようだ。

 

しかしJ-20はWS-10Cエンジンを搭載しても、スーパークルーズ性能(後述)の達成は疑問とされる。ライバルのF-22が搭載するプラット・アンド・ホイットニー(P&W)社製F119エンジンは推力15トンを超え、F-35搭載のP&W F135は最大推力19トン、ドライ推力2でも13トン近い推力を実現している。

WS-10C搭載のJ-20は「J-20A」と呼称されている模様だが、あくまでも「暫定型」なのだ。

脚注

  1. 冶金技術……金属材料を生産する技術
  2. ドライ推力……アフターバーナーを使用しないで発揮できる最大推力のこと。ミリタリーパワーと同じ

1件のコメント

開発を急いでいると言いますが中国の場合少し考え方が違うと思います。コスト回収を急いでいます。エンジン開発に莫大な費用を注いでおりそれが戦闘機開発だけでは回収できないでいます。J-31などもこのWS-15を積むと言いますが、市場では契約がとれていません。中国武器市場の取引相手は中進国か後進国のため、高価な戦闘機を購入できないためです。そのため、C919など民間旅客機のエンジン用も開発して、運用実績や整備・運用経験値も含めて稼ぐ内容ではないでしょうか?軍民一体で事業に邁進する中国らしい発想です。

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薗田浩毅元自衛隊情報専門官、軍事ライター、ネイリスト
(そのだ・ひろき)
1987年4月、航空自衛隊へ入隊(新隊員。現在の自衛官候補生)。所要の教育訓練の後、美保通信所等で勤務。 3等空曹へ昇任後、陸上自衛隊調査学校(現小平学校)に入校し、中国語を習得。
1997年に幹部候補生となり、幹部任官後は電子飛行測定隊にてYS-11EB型機のクルーや、防衛省情報本部にて情報専門官を務める。その他、空自作戦情報隊、航空支援集団司令部、西部および中部航空方面隊司令部にて勤務。2018年、退官。