第9回 速度に合わせて「DSIのコブ」を変化させる!?──J-20の性能検証(4)

速度に合わせて「DSIのコブ」を変化させる!?

では、J-20がマッハ2に到達することは本当に不可能なのだろうか。

近年、中国はDSIについて注目すべき取り組みを行なっている。それはDSIの「コブを可変させる」というもので、すでに中国国内のウェブにおいては「J-20の黒科技(“秘密の科学技術”の意味)」として話題になっており、特許としても申請されている。

DSIコブの変形概念図

特許申請の内容から見ると、DSIインテークのコブを、形状記憶合金により構成されるハニカム構造の外皮とその内側に加熱装置を組み合わせたもので製造し、その戦闘機が最も望む速度域に合わせて形状記憶合金の外皮の温度を調整することで、DSIインテークのコブの形状を変化させるものだ。

例えば超音速になった際は、おそらくコブの高さを高くして境界層がインテークに入り込すぎないようにするのだと推測される。

この「変形メカ」により、J-20は低速から超音速まで最適の吸気効率を得ようとしていることが分かる。

DSIインテークは中国以外では、F-35のほか、インドが開発中のAMCAにも採用されている模様だ。しかし筆者が知る限りにおいて、このような技術的アプローチを行なっているのは現在までのところJ-20だけだ。

次々と意欲的に新しいアプローチを続けるJ-20から当分目が離せそうにない。



参考文献

《学術論文など》
「铝镁钛轻质合金精铸件项目 可行性研究报告」(中国联合工程有限公司、2019年6月)
「形状记忆合金在飞行器进气道中的应用研究进展」(南京航天大学学报、2019年8月)
「“太行”研制瞎考」(胡诌施佬 微信记事、2018年)
「发明专利CN103225542B 一种可变形鼓包进气道的鼓包型面变形实现方法」(中国国家知识产权局、2015年6月3日)
「发明专利CN 110259580 一种可变形调节的DSI进气道」(中国国家知识产权局、2019年9月20日)
「Numerical Study on a 2-D Simplified Missile Separation from High Speed Aircrafts」(Journal of Physics : Conf.Series、2018年)
《書籍および雑誌》
「现代舰船」2018年10期,2019年06期(中国船舶重工业公司)
「海陆空天惯性世界」84期(中国科学技术协会、2009年12月)
『顧誦芬文集』(顧誦芬、航空工業出版社、2016年)
『アメリカ空軍史から見た F-22への道(下)』(夕撃旅団、パンダ・パブリッシング、2020年)

 

連載「元自衛隊情報専門官から見た中国戦闘機」第9回─終─


2件のコメント

>速度に合わせて「DSIのコブ」を変化させる!?
>しかし筆者が知る限りにおいて、このような技術的アプローチを行なっているのは現在までのところJ-20だけだ。

https://twitter.com/EnriqueM262/status/1246441482661363713
https://www.thedrive.com/content/2020/04/235235ff.jpg

コーンの大きさを変えて空気流量を制御するのはF-111でやっていたこととなる。

>次々と意欲的に新しいアプローチを続けるJ-20から当分目が離せそうにない。

膨らまし方が違うだけで、新しいアプローチどころか60年前の技術の焼き直し、コーンの前後移動がない分だけ簡略版でしかない。

超音速機のインテークがショックコーン、二次元ランプと発展した先で固定インテークが主流となったのは、可変機構部分の省略による重量軽減、コスト削減のメリットがあり、それを可能としたのは空気流量を適切に制御できるインテークの設計技術の確立、固定式のインテークであっても推力を確保できるエンジンの実用化、さらにはマッハ2以上の高速を必要としなくなったという要求性能の変化があってのこととなる。

読者にとって「中国人が新技術(っぽいの)を開発しました、スゴイ」を伝えられること重要ではない。
なぜ中国人がいまになって可変インテークを必要としているのか、それが戦術上の要求なのか、具体的にこのガジェットの採用で速度、航続性能はどのように向上するのか、中国人の期待する性能向上はその程度なのか、それともエンジンが繊細な空気流量の制御を必要とするなどの技術的理由で重量もコストも増加するデバイスが必要なのかといった、開発、採用の意図・理由についてなど、中国語に精通していなければ掘り下げられない記事に期待している。

拝読いたしました
F-22に比肩する性能に近づきつつあるということですね
また、当該機について生産数が200機近いことも判明していますが
我が国をはじめ台湾・米国・韓国といった周辺国家の空軍力は
とくに主力戦闘機分野でどのような対抗策が練られているのでしょうか?

ぜひこの点を薗田さんにご解説ねがいたく思います

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薗田浩毅元自衛隊情報専門官、軍事ライター、ネイリスト
(そのだ・ひろき)
1987年4月、航空自衛隊へ入隊(新隊員。現在の自衛官候補生)。所要の教育訓練の後、美保通信所等で勤務。 3等空曹へ昇任後、陸上自衛隊調査学校(現小平学校)に入校し、中国語を習得。
1997年に幹部候補生となり、幹部任官後は電子飛行測定隊にてYS-11EB型機のクルーや、防衛省情報本部にて情報専門官を務める。その他、空自作戦情報隊、航空支援集団司令部、西部および中部航空方面隊司令部にて勤務。2018年、退官。