第1回 現代戦車の装甲は意外と脆い!?──戦車の車体構造

現代の戦車戦は一瞬で決まる

作戦は第一、第二小隊が谷間に下りた敵先頭部隊と交戦し、第三小隊は斜面を下りてくる部隊を叩く。そしてまだ稜線にある後続部隊は砲兵隊が叩き、先頭部隊と隔離するというもの。

砲撃要請はすでに大隊のFSO(Fire Support Officer:火力支援将校)に伝えてある。砲兵隊の砲撃開始とともに前進してくる敵に攻撃を加える予定だ。

敵の戦車はいよいよ谷の底部に達し、その後方100メートルあたりの所にBMP 10両が続く。先頭の戦車との距離約2,000メートル。暗視装置を使用していないのか、まだこちら側には気づいていないようだ。やや斜めに相対するような格好で前進を続けている。

後続の第三グループが稜線に達した。中隊長は大隊通信を使ってFSOに射撃開始を要請すると、同時に中隊通信網に切り替えた。

 

「チャーリー全隊へ、砲兵隊の弾着開始と同時に射撃を開始せよ。各車指示された目標をよく狙って撃て!」

「砲手、いちばん先頭の戦車を狙え、APFSDS(翼安定分離装弾筒式徹甲弾)1砲弾を選定する。砲手がコントロールハンドルを握り照準を付ける。砲塔が回転し、主砲が先頭の戦車を狙う。

発射された直後に、装弾筒が分離した瞬間のAPFSDS

「目標補足」
照準器の軸線に戦車が捉らえられている。装填手が主砲にAPFSDS弾を装填すると同時に鎖栓が閉じる。砲手は前進してくる敵戦車をGPSで追っている。

「一斉射撃!」
FSOが砲撃開始を告げた。同時に谷の稜線が火花を吹き上げるように爆発し出す。DPICM(二重目的改良型通常砲弾)2の爆発だ。

「撃て!」
主砲の発射とともにその反動で戦車は後退し、勢いよく薬莢が薬室から飛び出す。撃ち出された弾体は凄まじい勢いで敵戦車の砲塔側面に命中した。装填手は砲塔バルスの弾薬庫アクセスドアを開いて次弾を引っ張り出し、再び主砲に装填する。

APFSDS弾が命中した戦車は炎を挙げて燃えている。

 

「命中だ!」
他の先頭の車輌も反撃する間もなく撃破されてしまった。

「敵戦車10両撃破」
斜面を下っていたBMPの一団も第三小隊の砲撃を受けて燃え上がり、搭載していた銃弾が誘爆でバチバチ音を立てながら四方八方へ飛んでいる。

砲兵隊による後続部隊への攻撃は見事に功を奏し、敵部隊は分断されたようだ。先頭部隊は全滅し、砲撃を受けた後続部隊は散り散りになってしまった。この間、わずか5分足らずの時間しか経っていなかった。

1991年の湾岸戦争時、放棄されたイラク軍のBMP-1歩兵戦闘車

これは1980年代から1990年代の戦車戦らしい戦闘が想定された頃のアメリカ陸軍の戦闘教範を参考にした仮想ストーリーである(1991年の湾岸戦争以後、多数の戦車同士が砲火を交えるような戦車戦はほとんど行なわれなくなった)。

とはいえ、現代戦において勝敗は一瞬にして決まる。過去の戦闘のように敵味方相対して何時間も戦い、やっと勝敗が決するというようなことはほとんどない。

仮想ストーリーからも分かるように、戦車の本質は動く火器のプラットホームである。プラットホームとしての機動力を生かし、効率よく搭載する火器で敵を攻撃することが戦車本来の役割と言える。

では戦車とはどのようなものか、まずその構造から解説していこう。

脚注

  1. APFSDS……細く長い弾芯をフィンと装弾筒によって真っ直ぐ飛ばす徹甲弾(詳しくは後の回で)
  2. DPICM……一帯を制圧するため、最適な距離と高度で子弾を散布するように設計された火砲など弾頭

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坂本明軍事ライター、イラストレーター
(さかもと・あきら)
長野県出身。東京理科大学卒業。
雑誌「航空ファン」編集部を経て、フリーランスのライター&イラストレーターとして活躍。
著書に『最強 世界の歩兵装備パーフェクトガイド』『最強 世界のジェット戦闘機図鑑』『最強 自衛隊図鑑』『世界の軍装図鑑』(学研プラス)など多数。
1/28に最新刊『最強 世界の空母・艦載機図鑑』(ワン・パブリッシング)を出版。