第1回 現代戦車の装甲は意外と脆い!?──戦車の車体構造

装甲および車体構造

戦車の車体は、枠組構造の中に動力装置や駆動装置などを組み込んでいるため車框とも呼ばれるが、「①装甲鋼板を組み合わせた構造」と「②鋳造(ちゅうぞう)構造」がある。

①装甲鋼板を組み合わせた構造には、さらに「鋲接(びょうせつ)式」と「溶接式」がある。前者は第二次世界大戦初期の戦車に多かったが、被弾時に鋲が切れて車内を飛び回り危険なため、後者が主流となった。

1940年頃にアメリカが開発したM3中戦車(写真はイギリス向けのリー)。鋲接式で、装甲鋼板を組み合わせた部分に並んでいる点のようなものが鋲(リベット)

②鋳造構造は鋳型に鋳込んで車体部品を造る方法で、どんな形にも鋳造できる利点があったことから多用された。

1943年頃にソ連で開発されたIS-2(スターリン)重戦車。砲塔部分は丸みを帯びており、鋳造構造となっている

現代の戦車は車体の大半の部分を装甲鋼板の溶接で構成している。従来の戦車が車体や砲塔のかなりの部分に鋳造品を用いていたのに較べ、鋳造品の使用を極力減じている。

車体でも主要鋳造品は極力使用していない。こうすることで自動製造や組立ラインを大幅に導入することができ、生産性の向上や生産単価の低減が可能となった。

これに対し、第二次世界大戦後半から1970年代頃までの戦車の多くは、鋳造品を使用するのが一般的だった。中でも最も被弾率の高い砲塔は避弾経始1を高めるため傾斜を強く付けるので、形状が複雑になる。鋳造ならば、複雑な形状でも比較的簡単に鋳造できたのである。

また現代の戦車では溶接の方式も、高温・高熱を発生する被覆(ひふく)アーク溶接2ではない。炭酸ガスアーク溶接3を用いることで、車体の部位によって厚さの異なる装甲鋼板を接合する際も溶接部分の強度を保ち、NBC兵器4に対する車体の気密化5を図っている。この溶接方式は低価格であるというメリットもある。

各部位によって厚さが異なる装甲鋼板

車体を構成する装甲鋼板は、車体全体で均一な厚さではない。この厚さの度合いは車体各部位によって異なってくる。

各部位の装甲鋼板の厚さの違いを表したイラスト。色が濃いところが装甲の厚い部分となる(Illustration:坂本 明)

なお、装甲鋼板は表面を硬化させて均質圧延装甲鋼板が一般的である。装甲板の材料については各国とも極秘だが、一般的にニッケルやクローム、モリブデンなどを含んだ高抗張力鋼で、高速の重い砲弾が持つエネルギーを割れずに吸収する能力と砲弾の侵入に対して抵抗する硬さを持っている。

車体各部位で装甲鋼板の厚さが異なる理由は、各部位によって被弾率が異なるためである。敵に相対して地上を走り戦闘を行なう戦車の場合、前面、しかも高い位置ほど被弾の可能性が高い。したがって最も被弾しやすいのは砲塔の前面で、次いで砲塔前側面と車体前面となる。

これまでに出現した戦車には、砲塔前面の装甲厚が20センチもある戦車もあった(中空装甲6や複合装甲7が開発されていない時代の戦車)。しかしそんな戦車でも、車体側面は1割、最も薄い後部では3割も厚さが減らされている。装甲厚を無限に厚くしてしまうと戦車の自重が重くなり、戦車本来の機動性が失われてしまうためだ。

脚注

  1. 避弾経始……装甲を傾斜させることで、砲弾のエネルギーを分散させ、跳弾させる概念
  2. 被覆アーク溶接……被覆剤(フラックス)を塗布した溶接棒を使用した溶接方法。簡易で、ガスなどを使用しないため風のある屋外でも作業可能だが、溶け込みが浅く、作業者の技量に依る部分が大きい
  3. 炭酸ガスアーク溶接……炭酸ガス(二酸化炭素)を使用した溶接方法。溶け込みが深く、不純物が混ざりにくい。一方で危険な一酸化炭素が発生する
  4. NBC兵器……核・生物・化学(Nuclear, Biological and Chemical)兵器のこと
  5. 気密化……密閉性を高め、外部のガスや空気などを一切通さないこと
  6. 中空装甲……装甲鋼板の前にもう1枚の装甲板を設けて空間をつくり、そこで化学エネルギー弾を起爆させて内側の装甲鋼板を守るしくみの装甲
  7. 複合装甲……装甲鋼板の中にセラミックなど熱に強い素材を挟み込んだ装甲

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坂本明軍事ライター、イラストレーター
(さかもと・あきら)
長野県出身。東京理科大学卒業。
雑誌「航空ファン」編集部を経て、フリーランスのライター&イラストレーターとして活躍。
著書に『最強 世界の歩兵装備パーフェクトガイド』『最強 世界のジェット戦闘機図鑑』『最強 自衛隊図鑑』『世界の軍装図鑑』(学研プラス)など多数。
1/28に最新刊『最強 世界の空母・艦載機図鑑』(ワン・パブリッシング)を出版。