第1回 現代戦車の装甲は意外と脆い!?──戦車の車体構造

傾斜で防弾力が倍に

また、被弾率は車体の外形にも影響を与えている。現在の戦車の車体側面上方の装甲板は、段のない前方へ傾斜した形になっている。このような装甲板の形はグラシス型(フランスの築城用語「Glacis:斜堤」が語源)と呼ばれる。

第二次世界大戦中の戦車は、車体前面の装甲板を垂直に配すのが一般的だった。グラシス型の装甲の場合、同じ厚さの装甲板でも較べても、傾斜構造によって古い形の装甲の倍以上の車体前面防弾力があるといわれる。

1942年頃にドイツ軍が開発したティーガーⅠ重戦車。当時の車体前面は操縦手の視界確保や機関銃装備のため、車体前面の装甲板が垂直に配されていた

この構造の考案者は、アメリカ人技師ウォルター・クリスティーといわれている。画期的なスタイルをしたT3戦車の開発者だ。

乗用車を運転するジョン・W・クリスティー(1865〜1944年)。速度を重視する独自の用兵思想に基づきクリスティー式戦車を設計した。コイルスプリングとスイングアームを組み合わせたクリスティー式サスペンションを発明したことでも有名

クリスティーT3が登場した1930年当時、この戦車のスタイルが注目されることはなかった。しかし第二次世界大戦中にこれを採用したソ連のT-34が実戦で活躍すると、その構造効果が認識され、各国でグラシス型の戦車が造られるようになった。

テストを行なっているクリスティーT3E2戦車の試作車輌。砲塔に傾斜が付けられグラシス型となっていることが分かる。写真は1936年のもの
ドイツ軍に鹵獲されたソ連のT-34前期型(1941年型)。車体前面や砲塔側面に強い傾斜が設けられている

脆弱な戦闘/操縦室を守る車内の構造

一般に、車内は前部から操縦室、戦闘室、動力室に区分されている。動力室には時には数十トンもの重さのある戦車を動かすエンジンが置かれ、動力室と戦闘室は防火壁で区分される。

標準的な戦車の車内。側面を守るのがアウト・プレートとなる。大戦中の戦車の車体内部の配置は基本的にグラシス型と変わらないが、起動輪が前部に位置していたため、トランスミッションや操向装置が操縦室に置かれるなど無駄なスペースが設けられていた

戦闘室と操縦室は搭乗員や器材などが配置されている脆弱部なので、車体側面を構成する装甲板1枚ではなく二重装甲としたり、現代ではアウト・プレートと呼ばれる表面硬化の均質圧延装甲鋼板1で車体側面が覆われている。

車体低部の装甲板はボトム・プレートと呼ばれ、対戦車地雷から車内を防護できる構造をとっている。

地上を走行する戦車は、空中を飛んでくる対戦車砲弾ばかりが敵とは限らない。地中に埋められ、人が乗った程度では爆発せず、戦車などの車輌が乗った場合にのみ爆発する対戦車地雷がある。

地雷が爆発すると、戦車の履帯や転輪を破壊して走行不能にしてしまったり、低部の装甲が弱いと貫通して乗員を殺傷することもある。

動力室の低部には点検孔およびオイル・ドレイン孔が設けられているが、これらの孔(あな)にも装甲カバーがボルトで止められている。車体両側面には走行装置が取り付けられ、上面には砲塔旋回リングを介して砲塔が取り付けられる。

ちなみに、アメリカ陸軍の使用するM1の車体は装甲鋼板を溶接接合したフラット・ボトム・ボート型で、高い剛性を持っている。

装甲鋼板の炭酸アーク溶接で構成し、高い剛性を持たせたM1の車框。車体低部の装甲板ボトム・プレートは、対戦車地雷から車内を防護できる構造をとっている。直線的な車体構造により、車高を低くして被発見率と被弾率を低下させている

連載「戦車の戦い方」第1回─終─

坂本明(著), ワン・パブリッシング, 2020年11月26日, ISBN:978-4651200279

脚注

  1. 均質圧延装甲鋼板……表面を硬化させただけの表面硬化装甲に対し、全体を同じ硬さにしている装甲板

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坂本明軍事ライター、イラストレーター
(さかもと・あきら)
長野県出身。東京理科大学卒業。
雑誌「航空ファン」編集部を経て、フリーランスのライター&イラストレーターとして活躍。
著書に『最強 世界の歩兵装備パーフェクトガイド』『最強 世界のジェット戦闘機図鑑』『最強 自衛隊図鑑』『世界の軍装図鑑』(学研プラス)など多数。
1/28に最新刊『最強 世界の空母・艦載機図鑑』(ワン・パブリッシング)を出版。