第4回 砲弾の威力の上げるにはどうすればよいか──戦車砲のメカニズム(2/3)

長射程なら大口径が有利

また射程によっても貫通力は変わってくる(当然のことだが)。射程が短い場合に貫通力を向上させるには、①口径を大きくする、②砲身を長くする、のいずれかの方式でも効果がある。

しかし射程が長い場合は、小口径の高速弾よりも、大口径で低速弾の方が貫通力が大きくなる。それは貫通力低下が少ないためだ。

貫通力低下とは、弾体が飛行していく際に空気抵抗によって威力が下がってしまうことである。弾体の断面積は直径の2乗に比例し、重量は3乗(体積)に比例する。飛距離あたりの弾体の速度低下は「断面積÷重量」の比で増大するといわれ、このため弾体の直径が大きくなれば「断面積÷重量」の比は小さくなり、速度低下も小さいということになる。

つまり、大口径の弾の方が飛ぶ距離の増加にともなって速度が落ちることが少ないので、貫通力が低下しないということになる。

第二次世界大戦ではドイツ軍のティーガーⅡ戦車(71口径長8.8cm戦車砲)を開発し、これに対抗するためにソ連軍がKV85(85㎜戦車砲)、IS2(122㎜戦車砲)などを出現させるに至った。

こうした重戦車の任務は遠距離から敵戦車を撃破し、味方の中戦車の活動を支援することにあるのは前にも記したが、これが「大口径弾の方が距離の増大にともなう貫通力の低下が少ない」ということを示している。実際、大戦中の大口径化にともなって、交戦開始距離が伸びたといわれている。

1944年7月のノルマンディー上陸作戦に対し初めて実戦投入されたとされるⅣ号戦車ティーガーⅡ。当時のすべての敵戦車の有効射程外から(敵戦車の)装甲を撃破できる主砲であったとされるが、68.5トンと重かったこともあって足回りの機械的な故障が多かった。
砲口部のT字型に穴が開けられている部分が後述のマズルブレーキ。写真はモスクワ郊外のクビンカ戦車博物館に展示されている第501重戦車大隊の第502号車(Photo:Alan Wilson)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

ABOUT US
坂本明軍事ライター、イラストレーター
(さかもと・あきら)
長野県出身。東京理科大学卒業。
雑誌「航空ファン」編集部を経て、フリーランスのライター&イラストレーターとして活躍。
著書に『最強 世界の歩兵装備パーフェクトガイド』『最強 世界のジェット戦闘機図鑑』『最強 自衛隊図鑑』『世界の軍装図鑑』(学研プラス)など多数。
1/28に最新刊『最強 世界の空母・艦載機図鑑』(ワン・パブリッシング)を出版。