第4回 砲弾の威力の上げるにはどうすればよいか──戦車砲のメカニズム(2/3)

砲弾の大型化のデメリット

もっとも、遠距離でも貫通力を増大させる最良の方法は、砲の口径を大きくし(大口径の弾を使用するということ)、かつ、砲身長を長くすることだ。しかし大口径の長い砲を戦車に搭載するということはそれだけ重量増加を招き、戦車の特徴の一つである機動性を失わせることになる。

また、大口径の砲を使用することは、砲弾の大型化と重量増につながる。大口径かつ大型の弾体を発射して飛行させ、それなりの貫通力を持たせるためには発射に必要な炸薬の量もそれだけ増やさなければならないからである。

そうなると、砲弾が大型で重くなっていき、戦車の装填手が1人では持て余すほどになって、弾体と薬莢を別々にした薬のう式砲弾を使用しなければならなくなった(自動装填装置があれば別だが、120ミリ砲が主流となっている現在でも、自動装填装置を装備した戦車はごく一部にすぎない。当然、第二次世界大戦当時には開発されていなかった)。

さらに、砲弾の大型化と重量増は、戦車に搭載できる砲弾の数をも減少させることになる。ソ連軍のIS2戦車は大口径の122ミリ砲を装備したが、搭載できる砲弾はわずか28発しかなかった。

ティーガーII(車体長7.38m/全幅3.75m)の8.8センチ砲と比べても、122ミリ砲という大きな戦車砲をもっていた重戦車IS-2(車体長6.77m/全幅3.09m)。乗員は4名であったが、車内は狭くて厳しい環境だったとされる(Photo:270862)

戦車砲の大口径化は貫通力の増大をもたらしたが、その反面、戦車にかかる反動も非常に大きなものとなった。重量についても同様のことがいえる。

砲の重量増加はそれを載せるための車体強度(装甲の強度ではなく、重い砲や砲塔を載せて未整備の道路や原野などを充分に走行できるための操向装置や車体の強度)も向上させねばならない。その結果、戦車の重量自体が増加し、機動性を失わせてしまう。

このため、反動を小さくする方法として砲口制退器(マズル・ブレーキ)が取り付けられることがある。この装置は弾体が砲身を出るときに、砲身の中の高圧ガスを砲口部に左右(あるいは上下)に穴けた開口部から逃がして、駐退復座機にかかる反動を弱めるためのものだ。

しかし、これには吹き出したガスが横に広がるため、弾着を見ることができないという欠点もある。

アメリカ陸軍のM198 155ミリ榴弾砲の発射の瞬間。砲先のマズル・ブレーキの左右から高圧ガスが広がっているのが分かる(Photo:U.S. Army)
坂本明(著), ワン・パブリッシング, 2021年1月28日, ISBN:978-4651200729
連載「戦車の戦い方」第4回 戦車砲のメカニズム(2/3)─終─

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坂本明軍事ライター、イラストレーター
(さかもと・あきら)
長野県出身。東京理科大学卒業。
雑誌「航空ファン」編集部を経て、フリーランスのライター&イラストレーターとして活躍。
著書に『最強 世界の歩兵装備パーフェクトガイド』『最強 世界のジェット戦闘機図鑑』『最強 自衛隊図鑑』『世界の軍装図鑑』(学研プラス)など多数。
1/28に最新刊『最強 世界の空母・艦載機図鑑』(ワン・パブリッシング)を出版。