第5回 戦車砲のメカニズム(3/3)──滑腔砲とライフル砲の違い 
連載「戦車の戦い方」

滑腔砲のメカニズム──APFSDS弾を高速で発射できる

ところで滑腔砲とは砲腔内にライフリングが刻まれておらず、内部はただ穴が空いている状態になっている(抵抗がないように研磨されている)。

当然ながらライフリングがないので、砲弾は回転せずに撃ち出され、回転による安定は得られない。そのため砲弾にフィン(安定板)が取り付けられている。

ライフル砲は発射する砲弾の弾道を安定させ、さまざまな砲弾が発射できる(スリッピングバンドを付ければ翼安定式の弾も撃てる)という利点があるが、口径を大きくすることが難しい。
一方、滑空砲は大口径化するには適しているが、風の影響を受けやすく飛翔距離が2,000メートルを越えると急激に精度が落ちる(Illustration:Akira Sakamoto)
滑空砲にはライフリングがないので、弾の回転による偏流は起きない。それに対しライフル砲では、回転によって弾は回転の方向へ逸れてしまう(偏流が起きる)(Illustration:Akira Sakamoto)

滑腔砲の利点はAPFSDS弾を高速で発射できることである。長いダートのような弾体を持つこの砲弾は、(運動エネルギーを)同じ重量のAPDS弾が戦車の装甲に与える運動エネルギーよりも小さな面積に集中することができるので、貫通力が大きい。

APFSDS弾は弾体にフィンを持つので回転させて安定を保つ必要がない。発射時はサポと呼ばれる装弾筒によって砲腔内では支えられるため、砲身内にライフリングを刻む必要がないのである。

また、滑腔砲はライフリングを刻んでいないために弾体に与える抵抗が少なく、弾体の初速度が速くなるといわれている。さらに、ライフル砲のように砲弾を発射するたびに弾体がライフルの刻みを削り取ることがないので、砲身寿命が長い。砲の重量もライフル砲に比べ、軽量化が可能だ。

近年、ライフル砲も発展しているが……

もっとも現在では、APFSDS弾のような翼安定弾もスリッピングバンドと呼ばれる技術の開発により、ライフル砲から発射できるようになっている。

滑腔砲では翼安定弾しか発射できないが、ライフル砲では翼安定弾以外の多種の砲弾も発射できるので、使用できる砲弾の種類が限定されないという利点があり、砲弾の平均コストも安いという利点もある。

しかし現在では、滑空砲が主流になっている。

なぜなら、繰り返すが戦車砲の装甲貫通力を高めるには、一般的に、①小口径あるいは砲身の長い砲で初速度を高めて砲弾を撃ち出すか、②初速度を変えずに口径を増大して弾径の大きい砲弾を撃ち出す方法があるが、二つのうち比較的に容易なのが後者で、特殊な加工の必要がない滑空砲は大口径化が容易だからだ。

坂本明(著), ワン・パブリッシング, 2021年1月28日, ISBN:978-4651200729

連載「戦車の戦い方」第5回 戦車砲のメカニズム(3/3)─終─

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坂本明軍事ライター、イラストレーター
(さかもと・あきら)
長野県出身。東京理科大学卒業。
雑誌「航空ファン」編集部を経て、フリーランスのライター&イラストレーターとして活躍。
著書に『最強 世界の歩兵装備パーフェクトガイド』『最強 世界のジェット戦闘機図鑑』『最強 自衛隊図鑑』『世界の軍装図鑑』(学研プラス)など多数。
1/28に最新刊『最強 世界の空母・艦載機図鑑』(ワン・パブリッシング)を出版。