第1回 燃費の悪いガスタービン──M1戦車のアキレス腱(上)

燃料喰いのガスタービン

M1戦車では、エンジンとしてAGT1500ガスタービンを採用した。ガスタービンとは、燃料を燃やした高温ガスでタービンを回し、回転運動エネルギーを取り出す内燃機関である。その一般的な特徴として、重量や容積の割に高い出力を得られることから、航空機用エンジンとして広く利用されている。

旧型のM60戦車は重量52tに対して750馬力と非力であり、新型戦車には1500馬力が求められていた。

しかし、それだけの高出力を従来のディーゼルエンジンで出そうとすれば、エンジンの重量も容積も相当に大きくなってしまうため、ガスタービンに着目したのである。結果的に見れば、この選択は大きな間違いであった。

1979年、実動演習に参加した際のM60パットン戦車(左)とM113装甲兵員輸送車

M1戦車の短所として、ガスタービンの排気が非常に熱くて強いため、随伴歩兵が戦車の後ろに身を隠すことができないという話は読者も聞いたことがあるだろう。

しかし、その程度のことは枝葉にすぎない。

問題点の第1は、燃費が非常に悪いことだ。

戦場での戦車は、ダッシュして遮蔽物に身を隠す動作を繰り返す。特に、敵の戦車砲や対戦車ミサイルで狙われた場合には、すかさず煙幕弾を発射して敵の視界を遮り、ダッシュで後退しなければならない。このようにエンジンの回転数を頻繁に変える場合、ガスタービンの燃費は著しく低下する。

また、ガスタービンは、低速回転時と高速回転時の燃料消費率の差が少ないため、アイドリング状態でもどんどん燃料を使ってしまう。

M1戦車は、他の戦車の2倍の500ガロン(約1900ℓ)もの燃料を積んでいるが、それでも航続距離は465kmにとどまる。0.24km/ℓという燃費は、レオパルト2戦車の0.46km/ℓのほぼ半分である。

そのため、湾岸戦争では1日に3回の給油が必要とされ、米軍戦車部隊の背後には、燃料を運ぶM978重機動タンカー(大型タンクローリー)が列をなすという状況であった。

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樋口晴彦
(ひぐち・はるひこ)
1961年生まれ。1984年に東京大学経済学部卒業。1994年にダートマス大学 Tuck School でMBA、2012年に千葉商科大学大学院政策研究科で博士(政策研究)取得。
警察庁・外務省・内閣安全保障室等に勤務し、オウム真理教事件・ペルー大使公邸人質事件・東海大水害などの危機管理を担当。現在は、企業不祥事の分析を通じて、組織のリスク管理と危機管理を研究。
著書に、『組織行動の「まずい!!」学──どうして失敗が繰り返されるのか』(祥伝社)、『なぜ、企業は不祥事を繰り返すのか』(日刊工業新聞社)、『本能寺の変──新視点から見た光秀の実像と勝算』『信長の家臣団【増補版】──革新的集団の実像』(パンダ・パブリッシング)など多数。