実戦で問題となる加速性と整備面
問題点の第2は、前述のとおり戦車はダッシュを繰り返さないといけないのに、ガスタービンはそもそも急加速に向いていないことである。エンジンの吹き上がり(レスポンス)が弱いのだ。
この点を少しでも改良しようと、AGT1500ではタービンの直径を小さく(=慣性を少なく)したところ、トルクが足りなくなってエンストが多発した。
その対策としてアイドリングの回転数を上げたところ、今度はアイドリング時の燃費がさらに悪くなるという悪循環にはまってしまった。
問題点の第3は、ガスタービンの繊細さである。ディーゼルエンジンと比べて、定期的な整備に多くのマンパワーとコストを要する。
さらに故障が発生した場合には、現場ではとても手に負えない。ガスタービンをパワーパック1ごと車体から取り外し、後方の整備基地に送り返さないといけないのだ。かくして米軍戦車部隊の背後には、交換用のパワーパックを積んだ整備部隊の車両が列をなすという状況になった。
「米軍だからなんとか運用できている戦車」
結局のところ、極めて充実した後方支援体制を持つ米軍だからこそ、M1戦車を何とか使いこなせているのである。湾岸戦争時のイラク軍のような「張り子の虎」でなく、本当に底力のある軍隊ならば、米軍のこの弱みを突くことも可能だろう。
米軍戦車部隊に正面から立ち向かったりせず、後方支援部隊をヒットエンドランで寸断すれば、すぐにM1戦車は立ち枯れてしまう。
ところで読者の皆さんは、「それほどガスタービンに問題があるのならば、どうしてディーゼルエンジンに交換しないのか」と疑問に感じたのではないだろうか。
この点については、長年にわたるブランクにより、戦車用の高馬力ディーゼルエンジンを開発する技術が米国内で失われてしまったのではないかと推察している。
米軍がAGT1500の更新用として計画していたLV100-5も、やはりガスタービンであった。ちなみに、このLV100-5では、整備性向上のために部品点数を43%も少なくする予定だったが、予算削減のため計画はキャンセルされている。
連載「樋口博士のミリタリー雑論」第1回─終─
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