「スクランブル!」─戦闘機整備員はパイロットより忙しい!?

整備員は2機分のみなので、忙しくなるととんでもなく忙しい

スクランブル機が上がってしばらくの間、整備は暇かと思われがちだが、上空にいる2機の機体の状況をモニターしてトラブルが出た場合には予備機の準備をしなければならない。

また、領空侵犯機がなかなか(領空および領空近辺から)離れない場合は、自衛隊機をいったん戻らせて、後から上げた機に目視追尾を引き継がせることもある。しかし、先に上がった方が降りてくる前に、次の5分待機の2機にスクランブルがかかる場合も多い。

さらに他の識別不明機が出た場合にも、当然そちらにスクランブルもかかるので、そうなると増強機が列線からアラートハンガーに回され、降りたスクランブル機が列線に戻るというケースもある。

嘉手納基地のアメリカ空軍第18航空団と共同訓練を行なっている航空自衛隊那覇基地の204飛行隊のF-15J。近年、中国機などの対領空侵犯措置の数が激増していることもあって、那覇基地は最も忙しい基地の一つとなっている(Photo:U.S. AirForce)



 

そういう状況になると、休む暇などなくなるほど忙しくなる。アラート待機に整備員は2機分しかいないため、降りてきた片方の2機にEPO(毎飛行後点検)と補給を行なっている最中に、もう片方がスクランブルなどということも何度も経験した。冒頭にあるように何もなければ本当に何もないのだけれども、忙しくなるととんでもなく忙しくなるのが整備の仕事なのである。

以前、今は百里基地を離れて沖縄で頑張る204飛行隊の後輩から通常訓練ができないほどスクランブルがかかると聞いたことがある。私が現職時代に最大に上げたのはF-4時代に夕方5時から朝8時までに5回という経験があるが、そのときの一睡もできない状況を経験しているだけにその状況がどれだけ大変か、本当に頭が下がる思いだった。

アラートハンガーの設備を中心に解説させていただいた。初回なのでまだまだ説明できていない部分も多いが、冒頭で上げた2機がそろそろ帰ってくる頃なので今回はそろそろ失礼する。次回はアラート飛行後ごとの点検の様子を交えて機体の整備を解説させてもらおうと思う。

(Illustration:渡辺悟志)

連載「元F-15機付長が語る 戦闘機整備員の世界」第1回─終─


4件のコメント

日本の空の守り、スクランブルがどのように維持されているか、貴重な実態を知ることができました。戦闘機を万全に整えることの大変さは想像以上で、恐れ入りました。

コメントありがとうございます。
引き続き面白いと思ってもらえる記事をお届けできればと思います。

お疲れ様です。
私は2→7と勤務していたAPGでした。
2の頃は203、7の頃はdockです。

記事を読み、懐かしさが込み上げております。
これからも、良い記事を宜しくお願い致します。

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渡辺悟志元航空機整備員(航空自衛隊)、イラストレーター
(わたなべ・さとし)
F-15J/DJ、F-4EJの航空機整備員として2002年まで航空自衛隊第7航空団飛行群に22年間勤務し、機付長から同乗検査員、フライトチーフまでを歴任。整備経験のある機種はF-104J、F-1、T-33A、T-2、T-4。
航空機整備の傍、イラストの特技を生かして204飛行隊マークデザインや、パッチ等グッズデザイン、ミスティックイーグルなどの戦技競技会特別塗装、204飛行隊F-15改編10周年塗装などの記念行事特別塗装などを多く手がける。
現在はフリーイラストレーター/グラフィックデザイナーとして、ミリタリー以外のジャンルでも精力的に活動中。