手間がかかる奴ほど愛おしい!?─整備員から見たF-15とF-4の違い

F-4のエンジン起動手順【通常時/アラート時】

まず通常時は、右エンジンからエアを送り、エンジン回転が10%になったら、スロットルをアイドル位置に前進させてイグニッションボタン(点火ボタン)を押す。通常はここからライトオフ(点火:light-off)してアイドル回転(35〜40%)に達したらエアを止め、ホースを外して左エンジンに繋ぎ、左エンジンを回す。

一方、アラートでは、右エンジンがライトオフしたら、左エンジンにもエアを送り込んでエンジンをスタートさせる。こうすることで、エンジン始動にかかる時間を短縮している。

アラート時にさえ、左右のエンジン始動を時間差で行なう理由は、イグニッションボタンがスロットルグリップの後方にあり、両エンジンのイグニッションボタンを同時に押すことが難しいという理由もある。

実際に、片側のエンジンだけでもボタンを押しきれず、点火しなかったことも何度か経験している。

F-4のスロットルと左コンソールの一部で、矢印部分が左右エンジンのイグニッションボタン。エンジンが点火されるまでイグニッションボタンを押し続ける必要があるが、少し離れた位置にあるので片手で両エンジンのイグニッションボタンを押し続けるのは難しいことが分かる

また、本来は一度スロットルをカットオフにしてそのままエアを送り込み、燃焼室に溜まった燃料を吐き出させる必要があるが、慌てたパイロットがそのままイグニッションボタンを押し直してしまって余剰に燃料が溜まったエンジンに点火し、ノズルから豪快に炎が出るといったこともあった。

もっとも、それでも壊れないJ79エンジンは確かに丈夫なエンジンである。

F-4のスロットルレバーの構造図。カットオフとは燃料を遮断する位置(Illustration:宮坂デザイン事務所)

なお、F-4にはカートリッジスタートという火薬式カートリッジを使ってエンジンを始動する方法があったが、エンジンに負担が大きいため緊急時以外には使用しない。


F-15のエンジン起動手順

F-15は、JFS1(エンジン起動装置)を始動すると最小限の電源が供給される。スロットルのフィンガーリフトをアップすることで、JFSの駆動がCGB2とAMAD3を介してエンジンに伝達され、エンジンが駆動を始める。

F-15のスロットル。スロットルレバーを上方にスライドさせると、JFSの駆動がエンジンに伝達されるようになる。ちなみに隊員は「フィンガーリフト」と呼ぶことが多いらしい(Image:U. S. Air Force)

エンジンのRPM(1分間当たりの回転数)が18%になったところで、スロットルをアイドルに前進させ、燃料をエンジンに送り込み点火する。

F-15にイグニッションボタンはなく、自動点火である。その後はRPMがアイドルに達すると、自動でJFSの駆動が切断される。切断されたら、右エンジンと同じ手順で左エンジンを回す。

一応、技術指令書の通りに「RPM18%でスロットルをアイドルに」と書いたが、特に右エンジンの場合、エンジン回転計はエンジンが回転しだした途中から電源が入るので18%ぴったりでスロットルをアイドルに進めるのは至難の技となる。なので、だいたいそのくらいの回転数でというのが(パイロットや整備員の間の)一般認識ではある。

ただし、30%まで放っておいてもよいようなことを言うパイロットも中にはいるが、いくらエンジンは始動するからといっても、JFSへの負荷を考えると整備的にはお勧めできない。

脚注

  1. JFS……ジェットエンジンの始動のみを行なう小型ガスタービンエンジン。Jet fuel starter
  2. CGB……JFSの出力を左右のAMADに伝えるためのギアボックス。Central gear box。隊員は「シージービー」と呼ぶことが多い。
  3. AMAD……左右に1機ずつあり、CGBから供給されたJFSのパワーを左右のエンジンに送ることでエンジンを始動させる装置。また、油圧ポンプや発電機はこの装置に取り付けられており、これを駆動させる。Airframe mounted accessory drive。隊員は「エーマッド」と呼ぶことが多い。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

ABOUT US
渡辺悟志元航空機整備員(航空自衛隊)、イラストレーター
(わたなべ・さとし)
F-15J/DJ、F-4EJの航空機整備員として2002年まで航空自衛隊第7航空団飛行群に22年間勤務し、機付長から同乗検査員、フライトチーフまでを歴任。整備経験のある機種はF-104J、F-1、T-33A、T-2、T-4。
航空機整備の傍、イラストの特技を生かして204飛行隊マークデザインや、パッチ等グッズデザイン、ミスティックイーグルなどの戦技競技会特別塗装、204飛行隊F-15改編10周年塗装などの記念行事特別塗装などを多く手がける。
現在はフリーイラストレーター/グラフィックデザイナーとして、ミリタリー以外のジャンルでも精力的に活動中。