戦闘機が戻ってきてからも大忙し!?─スクランブル後の点検・整備手順

格納庫内で燃料などを補給

F-15のエンジンが停止したと同時に、待機していた燃料車が格納庫の前方へ進入してくる。誘導して停止したら、燃料車の後方のドラムに巻いてある一点圧力給油式1の燃料ホースを引き出す。

航空自衛隊の各基地で使用されている20KL燃料給油車。4KL(キロリットル)ごとに区分けされており、毎分2,200リットル以上を供給できる。基地によるが、「給油車」ではなく「燃料車」と呼ぶことが多いとのこと(Photo:航空自衛隊三沢基地)

ホースは昔に比べると随分軽くなったが、それでも重い。1人でも勢いをつければ出せないこともないが、普通にホースを全部引き出すには最低2〜3人が必要である。

20KL燃料給油車から給油ホースを伸ばす三沢基地の補給隊員(Photo:航空自衛隊三沢基地)

燃料ノズルを機体の給油口に繋いで、給油を開始する。航空自衛隊で使用するJP-4Aは、ケロシンとガソリンをブレンドしたワイドカット系の燃料に凍結防止剤を混合させたジェット燃料で、世界的に見るとスタンダードではない燃料である。

機体内・外すべてのタンクに、この給油口から補給される。通常のエプロンでは1タンクの機体(外部燃料タンクがセンターライン1本のみ)には1台の燃料車で給油を行なう。しかしアラートではそれでは倍の時間がかかってしまうため、2台の燃料車で2機を同時に行なう。

燃料車にもガソリンスタンドのようなカウンターがあるのだが、1の桁(単位L)がない。つまり、動く桁の最低が10の桁なのだが、それがグルングルン回るのを見ると燃料車のポンプの吐出量の多さが分かる。1万リットル近くの燃料を10分程度で補給できるわけである。

アメリカ空軍F-15Eの給油口部分のパネルを開け、給油プラグを繋ぐ準備をしている整備員。F-15J/DJもF-15Eと同じく、空中給油用の給油口は機体上面の左主翼の付け根あたりにあるが、地上給油用は左エアインテークの下に給油口が設けられている(Photo:U.S. Air Force)

一点圧力給油のため、満タンになればそれ以上入らないので機体側でモニターする必要がない。そのため燃料補給をしながら各部のデータの記録、エンジンオイルの分光分析用サンプル採取、そしてエンジンオイルやハイドロオイル、液体酸素(酸素マスク用)などの残量を点検して必要であれば補給する。


扱いに注意が要るLOX(液体酸素)の補給

液体酸素はLOX(Liquid Oxygen:ロックス)と呼ばれ、緑色のLOXコンテナ(容量はF-15Jが5リットル、F-15DJが10リットル)は機首のDOOR 6R内にある。機体に装着したままでも補給は可能だが、位置が高くて危険なうえに、可燃物との同時作業はできない。

訓練中に次のソーティ(出撃)に備え、F-15の機首右側面のパネル(DOOR 6R)を開けてLOXを補給しようとしているアメリカ空軍の整備員。(航空自衛隊では一般的にLOXコンテナを外して補給するが)取り付けたままの補給のほうが外気が入らなくてよいという考え方もあり、この場合は直接補給している。写真は1996年のもの(Photo:U.S. Air Force)

そのためコンテナを外して、通常は駐機場付近にあるLOXカート(補給器)から補給する。アラートの場合は(駐機場から距離が離れているので)、アラートハンガー(待機所)脇に置いてある別のLOXカートで補給を行なう。

機体内や、外部の漏れ、緩み、亀裂などを目視や触手によって点検し、キャノピーを含めて汚れている部分は拭き取る。ここで何か不具合が見つかれば、状況に応じてその場で修理するか機体を入れ替える。

点検がすべて終わったらアクセスパネルを閉じ、機体に付属する整備記録へすべて書き込み終えたらEPOは完了となる。待機室に戻っているパイロットを呼んでパイロットによる外部点検が完了したら、この時点で外せる安全ピンを外して機内に収納し、待機完了である。

脚注

  1. 一点圧力給油式……1ヵ所の給油口から機内すべての燃料タンクに、強制的に燃料を送り込むことができる給油システム

2件のコメント

現場の状況が見えるような記事で非常に興味深く読ませていただいております。順調に連載されることを期待しております。

コメントありがとうございます。
編集部の都合で思うように編集・更新が進んでいませんが、なるべくコンスタントに続けていけるように努力したいと思います。
今後ともよろしくお願いします。

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ABOUT US
渡辺悟志元航空機整備員(航空自衛隊)、イラストレーター
(わたなべ・さとし)
F-15J/DJ、F-4EJの航空機整備員として2002年まで航空自衛隊第7航空団飛行群に22年間勤務し、機付長から同乗検査員、フライトチーフまでを歴任。整備経験のある機種はF-104J、F-1、T-33A、T-2、T-4。
航空機整備の傍、イラストの特技を生かして204飛行隊マークデザインや、パッチ等グッズデザイン、ミスティックイーグルなどの戦技競技会特別塗装、204飛行隊F-15改編10周年塗装などの記念行事特別塗装などを多く手がける。
現在はフリーイラストレーター/グラフィックデザイナーとして、ミリタリー以外のジャンルでも精力的に活動中。