ステルス戦闘機の開発コンペ──成都案と瀋陽案
2000年4月、北京において航空機機体総合設計技術課題年次総会が開催され、その席上、中国軍の装備開発などの主管組織である総装備部の局長は、三段階計画における研究成果に満足の意を表明するとともに、第10次5ヵ年(2001〜05年)期間中に実施すべき項目を発表した。
局長は「準備研究は完了した。今後、実用機開発に移行する」とし、以下の項目について開発を行なうものとされた。
- 1〜2種の先進的次世代戦闘機の設計案を完成させる
- 低抵抗(優れた空力特性および高ステルス性)措置に加え、新型インテークおよびウェポンベイ設置の要求を満足させる
- 重量、強度および製造実現を考慮した機体構造の電子モデルの提出
- 対航空機(戦闘)システムの機上設備およびシステム設計の提出
この内容から、中国軍は、メーカーに対し速やかにステルス戦闘機開発を行なうよう指示したことになる。
この際、軍がどのような細部性能を求めたのかは現在のところ知る由もないが、当時の状況を考慮すると「米F-22に対抗できる」という項目が含まれていたことは想像に難くない。
2003年、両メーカーは双発・前尾翼を採用した案を提示している。
成都(成都航空機工業集団)の提案は、ほぼ現在のJ-20と同じ形態であり、長いストレーキがついたクリップド・デルタ翼に前尾翼(カナード翼)を配置し、幅広の胴体にサイドインテークとしている。
これは、当時開発がほぼ完了していたJ-10の「クリップド・デルタ+前尾翼」の正常進化ともいえるものだ。
幅広の胴体は、おそらく当初からステルス機に不可欠なウェポン・ベイをも意識していたものであろう。
ネットに流出したコンペ審査に関する資料
ここで一つ、面白い画像を紹介したい。
画像は、2004年に行なわれたとされる2社の設計案審査の「内部資料」とされるものである。
数年前、ウェブ上に流出し一部の中国航空ファンの話題をさらった。
向かって左側が機体形状+翼等の配置を模式化した図である。上の二つが成都案、下二つが瀋陽(瀋陽航空機製造集団)案である。
そして各案の右側上は評価項目およびその順位である。
各案の右下の欄は隠されてしまっているが、おそらく評価項目にかかる数値などが記載されていたのであろう。
評価項目は左から「マニューバビリティ」「アジリティ」「ピッチ(大迎角)特性」「ステルス性能」「上昇性能」と並んでいる。
上から二つ目の成都案が採用されたのであるが、その評価に注目すると「ステルス性能」の順位がトップであり、「上昇性能」と「ピッチ(大迎角)特性」が高く、機動性などにかかる部分は決して高くない。
ステルス性能や上昇性能が優先されたと思える結果は、中国空軍の次世代戦闘機における重点を示しているとも捉えられる。(※1)
(※1)当初、「上昇性能」の部分を「揚力係数」としていたが、推定される要求性能などから再検討し「上昇性能」に変更した。
参考文献
・中国航空工業院士選書『情志藍天 記航空気動専門家 李天』(航空工業出版社、2011年4月)
・「現代艦船」2018年第10期、同2019年第6期、中国船舶重工業集団公司
・「航空知識」2018年第5期、航空知識雑誌社
・「航空ファン」2018年7月号、文林堂
・「百度百科 宗文驄」
・「瀋飛4代戦機方案設計科幻」
連載「元自衛隊情報専門官から見た中国戦闘機」第2回─終─
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